吉彦秀武

吉彦秀武：後三年の役を彩った出羽の武将

吉彦秀武は、平安時代後期に出羽で活躍した謎多き武将です。その生没年は不明ながら、清原氏と深いつながりを持ち、後三年の役において重要な役割を果たした人物として知られています。父は吉美侯武宗、母は清原武頼の娘、妻は清原武則の娘であり、弟に吉彦武忠がいました。

吉彦氏（吉美侯氏）は、古代の毛野氏の部民が起源であると推測されています。天平勝宝9年（757年）に「吉美侯部」と改称され、平安時代の文書には多くの俘囚がこの氏名で記録されています。吉彦秀武は「荒川太郎」の異名を持ち、出羽国荒川（現在の秋田県大仙市協和荒川周辺）を拠点としたと考えられていますが、確証はありません。

前九年の役と清原氏

『陸奥話記』によると、吉彦秀武は前九年の役で清原氏の一族として従軍し、戦功を挙げたとされます。清原氏は、この時代、東北地方の有力豪族であり、安倍氏滅亡に貢献しました。しかし、延久蝦夷合戦への参加については史料が不足しており、不明な点が多いです。

後三年の役と真衡との確執

後三年の役は、清原氏の内部抗争から勃発しました。吉彦秀武は、清原武則、清原武貞、清原真衡の三代に仕えた重鎮であり、一族の有力者でした。しかし、従来の同族集団としての清原氏を、源氏や平氏のような棟梁を中心とした武士団へと変革しようとした真衡と対立します。

真衡の養子・成衡の婚礼に際し、秀武は祝いの品として自領産の砂金を携え、陸奥の真衡の館を訪れました。しかし、真衡は秀武を無視し、秀武は怒り狂って砂金を庭に投げ捨て、出羽へ帰還しました。この事件が後三年の役の引き金となりました。

秀武は、清原氏の後継として武貞の次男・家衡を推していたとされています。真衡が夫婦養子である成衡を迎えたことへの反発も、確執の原因の一つです。真衡は、俘囚長の血脈を避け、帝系の血を引く平氏と源氏の血筋を持つ成衡を養子にすることで、清原氏の家格を高めようとしたとも考えられます。

戦略と敗北

後三年の役において、吉彦秀武は6000の兵を率いて真衡に反旗を翻しました。しかし、真衡の8000の大軍には敵わず、真衡と不仲の清衡と家衡を誘って真衡の館を襲撃しますが、真衡の妻子や源義家の援軍に阻まれ、清衡・家衡は敗北し源義家に降伏しました。真衡は出羽への進軍中に病死します。

兵糧攻めと清原氏の滅亡

続く清衡と家衡の争いでは、吉彦秀武は清衡と源義家側に付きました。金沢柵に立て籠もった家衡を攻めあぐねる義家に対し、秀武は、投降してきた女子供を殺すことで城内の兵糧消費を促すという、画期的な兵糧攻めを提案しました。この作戦により金沢柵は陥落し、後三年の役は終結、清原氏は滅亡しました。

最期

後三年の役後の吉彦秀武の消息は不明です。後世に残した足跡は、後三年の役における重要な役割と、独自の軍事戦略に留まります。その生涯は、謎に包まれたまま、歴史の闇に消えていきました。しかし、彼の存在は、東北の歴史、特に清原氏とその周辺勢力の動向を理解する上で欠かせない要素であり続けています。

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