吉村元男

吉村 元男（よしむら もとお）は、1937年11月6日に京都府京都市で生まれた日本の造園家、環境デザイナー、そして環境学者です。
彼は単なる緑地の設計に留まらず、生命が織りなす生態系に着目し、自然と人間が共生できる環境全体のデザインを探求しました。その活動範囲は広範にわたり、教育者としても後進の育成に尽力しました。

吉村氏の専門家としての道のりは、1960年に京都大学農学部林学科で造園学を修了したことから始まります。大学卒業後、京都を拠点とする造園家・井上卓之に師事し、造園の実践と理論について深く学びました。その後、AIN造園事務所に参加し、1970年に開催された大阪万国博覧会の会場計画に携わるという、大規模な国家プロジェクトでの経験を積みました。この経験は、その後の彼の活動に大きな影響を与えたと考えられています。

1968年には、自身の理念を具現化する場として「環境事業計画研究所」を設立し、所長に就任しました。この研究所を基盤に、吉村氏は都市空間、公園、河川、港湾、住宅地など、多様なスケールと機能を持つ環境のデザインを手がけ始めます。

彼のデザイン哲学は、「野生」のもつ生命力と多様性を評価し、それを都市や人工的な環境の中にいかに取り込むかという点に根ざしています。人間が自然の一部として、生態系の中で調和して暮らせる空間の創造を目指しました。この思想は、『空間の生態学』、『都市は野生でよみがえる 花と緑の都市戦略』、『ランドスケープデザイン 野生のコスモロジーと共生する風景の創造』、『風景のコスモロジー』といった彼の著書に詳しく述べられています。

長年の活動の中で、吉村氏はその功績を広く認められ、数々の栄誉に輝いています。1984年には、日本の伝統的な景観である鎮守の森の保存と修景に関する研究が評価され、第11回環境賞優良賞を受賞しました。2000年には、日本の公園緑地分野への貢献が称えられ、日本公園緑地協会北村徳太郎賞を受賞しています。また、初期の代表作である万博記念公園の設計を含む一連の造園設計に対して、昭和53年度の日本造園学会賞設計計画作品部門が贈られました。

吉村氏が手がけた主な作品には、大阪の梅田スカイビル周辺（新梅田シティ）の景観計画（都市景観大賞、大阪市みどりの景観賞受賞）や、京都市中心部の新京極六角広場「ろっくんプラザ」（都市景観大賞景観形成事例部門受賞）といった都市空間における作品があります。公園や庭園では、名古屋市の白鳥庭園内の「汐入の庭」（都市景観大賞入賞、名古屋市都市景観賞受賞）や、滋賀県陶芸の森（HIROBA作品賞受賞）、そして大阪府民の森の整備計画などが挙げられます。他にも、徳島県文化の森総合公園、芦屋浜シーサイドタウン緑道、神戸市ハーバーランド修景運河デザイン、桂坂ニュータウンの緑地計画など、その作品は全国各地に及び、多岐にわたる分野で環境デザインの可能性を示しました。

教育者としては、2000年から鳥取環境大学環境情報学部環境デザイン学科の教授として教壇に立ち、自身の持つ知識と経験を次世代に伝えました。2008年に大学を定年退職した後も、地域ネットワーク会議代表やNPO鳥取エコタウン2020理事長といった立場で、持続可能な地域づくりに向けた社会活動を継続しました。

吉村氏の晩年の活動において、特筆すべき出来事として梅田スカイビルの緑化を巡る一件があります。2013年、ビルの庭園設計を担当した吉村氏は、建築家・安藤忠雄氏が発案したビルの壁面緑化計画（「緑の壁」）について、自身のデザインの統一性を損ない、著作権を侵害する可能性があるとして、工事中止を求める仮処分を大阪地方裁判所に申請しました。この訴訟は、ランドスケープデザインにおける設計者の権利、特に著作権の保護について、社会的な関心を呼ぶ契機となりました。

吉村元男氏は、生態学的な視点に基づいた独自の環境デザイン思想を持ち、実践と教育、社会活動を通じて日本のランドスケープデザイン界に多大な貢献をしました。彼の作品と思想は、人間と自然がいかに共生できるかという問いに対する重要な示唆を与え続けています。

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