吉村良一

吉村 良一

吉村 良一（よしむら りょういち）は、1950年生まれの日本の法学者です。専門は民法および環境法で、立命館大学の教授を務めています。奈良県出身。1991年に立命館大学から博士（法学）の学位を取得しました。また、第24期の民主主義科学者協会法律部会理事長も歴任しました。

経歴

京都大学法学部を卒業後、同大学大学院法学研究科で学び、修士課程を修了。その後博士課程を単位取得退学しました。1979年、立命館大学法学部に助教授として着任し、後に教授に昇任。ドイツのフライブルク大学での客員研究員経験もあります。立命館大学では、法学部長、大学院法学研究科長などの要職を歴任し、その後は同大学法務研究科（法科大学院）の教授としても教育・研究に携わっています。

研究活動と思想

吉村氏の主要な研究領域は、不法行為法と環境法であり、特に公害と不法行為の関係に焦点を当てた研究で知られています。その研究の根底には、公害による被害を受けた人々をいかに実質的に救済するか、という強い問題意識が一貫しています。

氏は、現代社会における公害被害者救済の課題に取り組む上で、古典的な過失責任論の再評価が重要であると主張しています。従来の法解釈では、過失責任主義は近代以前の原則とされ、近代以降の無過失責任主義は被害者救済のための例外として位置づけられてきました。無過失責任は、注意を尽くしても避けられない損害に対する責任と説明されることが一般的です。

しかし吉村氏は、このような無過失責任主義の例外的な位置づけが、公害被害のように広範かつ深刻な損害に対する救済において、必ずしも十分に機能していない現状を指摘します。また、多くの論者が公害を、企業活動に不可避的に伴う「許された危険」の一部とみなすことに対しても疑問を呈しています。氏は、公害の本質は不可避性にあるのではなく、企業の利潤減少を伴う回避策が困難である、という経済的な側面から生じる問題であると捉えるべきだと考えます。

こうした問題意識から、吉村氏は現在の日本の不法行為法における過失判断のあり方を見直すことを提案しています。現在の一般的な判断基準が、被害発生を防止するための措置を講じたかどうかに重点を置く傾向にあるのに対し、氏は古典的な過失論、すなわち損害の発生を予見できたか否か（予見可能性）によって過失の有無を判断するべきだと主張します。この主張は、公害の本質と責任の所在をより明確にすることで、予見可能であったにもかかわらず回避を怠った行為に対する責任を厳格に追求し、実質的な被害者救済へと繋げることを目指していると考えられます。

主要著作

吉村氏の主要な著書には、『不法行為法』（有斐閣）や『環境法入門』（法律文化社）、『市民法と不法行為法の理論』（日本評論社）など多数があります。これらの著作を通じて、不法行為法、環境法、特に公害問題に関する議論に多大な貢献をしています。

吉村良一氏は、日本の公害法・環境法研究において重要な位置を占める法学者であり、既存の法理論を深く掘り下げ、被害者救済という社会的な課題に応えるための理論的な探求を続けています。その研究と思想は、不法行為法における責任のあり方について新たな視点を提供し続けています。

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