吉田正廣

吉田正廣

吉田 正廣（よしだ まさひろ）は、1895年12月8日に生まれ、1972年1月10日に逝去した日本の歴史研究者です。朝鮮史家、郷土史家としての業績を残すとともに、朝鮮総督府の官吏としても勤務しました。

生涯と経歴

現在の鹿児島県伊佐市にあたる北伊佐郡羽月村で、堂前家の三男としてこの世に生を受けました。5歳の時に吉田家の養子となり、以後吉田姓を名乗ります。鹿児島県立鹿屋農学校で学び、卒業後に官吏の道を選びました。公的な記録によれば、1921年（大正10年）に京畿道勧業技手として朝鮮総督府に奉職したのが、彼のキャリアの始まりとして確認されています。彼は特に朝鮮の農業、とりわけ複雑な小作制度に関心を寄せ、その実態解明に尽力しました。朝鮮農地令の制定に際しては、重要な役割を果たした人物と見なされています。朝鮮総督府の高等官（奏任官）として勤務する傍ら、研究活動にも熱心に取り組みました。自身の研究を「『朝鮮の農村及農村生活』の実証的研究」と位置づけ、その成果は『朝鮮の小作慣行－時代と慣行』（1930年）や、より詳細な『朝鮮ノ小作慣行』（1932年）といった著作にまとめられています。

太平洋戦争の終結後、正廣は家族と共に故郷である鹿児島県大口町（現在の伊佐市）へ引き揚げました。帰国後は鹿児島県庁に勤務し、これまでの経験と専門知識を活かして、郷土の歴史、特に農業史や農民史の研究に傾注しました。鹿児島県史や鹿児島県議会史といった公的な史書の編纂事業に深く携わり、郷土の歴史記録の整備に貢献しました。また、地元の経済大学や短期大学で講師を務め、後進の指導にもあたりました。この時期に刊行された主な著書としては、『鹿児島県農民組織史』（1960年）、『鹿児島明治百年史年表』（1968年）などがあり、戦前とは異なるフィールドで研究成果を発表しました。

家族

私生活では、36歳の時に当時23歳の吉田朝子と見合い結婚しました。妻・朝子は1907年8月3日、朝鮮の京城で誕生しました。父は朝鮮の陸軍病院に勤務する軍人であったため、一人娘として恵まれた環境で育ちました。旧制高等女学校を卒業後、単身日本へ渡り同志社大学で学びました。大学卒業後は朝鮮に戻り、母校で1年間英語教師を務めた経験があります。正廣との結婚後、朝鮮で一男二女をもうけましたが、残念ながら長女は幼くして亡くなりました。終戦による日本への帰国後、翌年に生まれたのが、後に日本の音楽界に金字塔を打ち立てるシンガーソングライターの吉田拓郎です。

妻の朝子もまた、強い意志を持った人物でした。帰国後、創立間もないラ・サール高校で舎監として働きながら、独学で栄養学を学び、栄養士の資格を取得しました。その後、広島県立盲学校で栄養士として10年間勤務し、多くの生徒たちの健康を支えました。53歳で定年退職した後も、広島の自宅で茶道や華道の教室を開き、師範として後進の育成に励みました（朝子は1985年に逝去）。正廣と朝子の次女の息子、つまり孫にあたる人物に、キーボードプレイヤーとして活動するモンゴル松尾がいます。

主な著作

『朝鮮の小作慣行－時代と慣行』（1930年）
『朝鮮ノ小作慣行』上下巻（1932年）
『朝鮮に於ける小作に關する基本法規の解説』（1934年）
『鹿児島県農民組織史』（1960年）
* 『鹿児島明治百年史年表』（1968年）

後世への影響

吉田正廣の朝鮮における実証的な小作慣行研究は、当時の農政に影響を与えたと評価されています。また、戦後の郷土史研究においても、鹿児島県の近代農業史や農民史に関する貴重な研究としてその価値が認められています。近年、彼の生涯と業績に関する評伝や研究論文が発表され、多角的な視点からの研究が進んでいます。なお、息子である吉田拓郎氏のインタビュー等で、正廣の出身地や学歴に関する一部に誤った情報が流布した経緯がありますが、その後の研究によって事実関係は訂正されています。吉田正廣は、朝鮮総督府官吏、そして研究者として、激動の時代に実証的な視点から社会を見つめ、その記録を残した人物です。1972年、76歳でその生涯を閉じました。

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