北伊佐郡

北伊佐郡

北伊佐郡（きたいさぐん）は、かつて鹿児島県の北部に設置されていた短命な行政区分です。この郡が存在したのは明治時代のわずかな期間でした。現在の伊佐市の中心部や北東部に相当する地域がその範囲でした。

北伊佐郡が行政区画として成立したのは、明治20年（1887年）5月9日のことです。これは、当時の伊佐郡の中から、かつての牛山郷にあたる区域を分離して設けられたものです。成立した際の郡域は、現在の伊佐市の大部分を占めていますが、大口曽木や大口針持、菱刈各町といった地域は含まれていませんでした。郡の南側は大隅国菱刈郡と接しており、境界線は上流域の一部を除いて、概ね川内川とその支流である市山川、重留川、羽月川によって形成されていました。

北伊佐郡が設置される以前の歴史を見ると、明治維新を迎えた時点では、この地域全体が薩摩鹿児島藩の領地でした。当時の行政単位である「郷」としては、後の北伊佐郡となる範囲には、大口郷の一部、羽月郷、山野郷が含まれており、合計で23の村が存在していました。具体的には、大口郷には里村、原田村、青木村、目丸村、大田村、牛尾村、淵辺村、平出水村、木ノ氏村、篠原村、小木原村、小川内村、渡田村が、羽月郷には鳥巣村、白木村、大島村、堂崎村、金波田村、下殿村、宮人村、川岩瀬村、田代村が、そして山野郷には山野村が含まれていました。これらの村は全て現在の伊佐市に含まれる地域です。

明治2年（1869年）には、これらの郷が統合されて「牛山郷」という一つの単位となりました。その後、明治4年7月14日（新暦では1871年8月29日）には廃藩置県が実施され、この地域は鹿児島県の管轄へと移されました。村の統廃合も行われ、明治9年（1876年）には渡田村が小木原村に合併され、村の数は22となりました。

行政上の「伊佐郡」が新たに発足したのは、明治12年（1879年）2月17日の郡区町村編制法の施行によるものでした。この時、伊佐郡を管轄する郡役所として、薩摩郡屋地村に置かれた「宮之城郡役所」が指定され、薩摩郡や当時は大隅国であった菱刈郡と共に管理されました。さらに明治14年（1881年）7月28日には管轄体制が変更され、薩摩郡東手村に設置された「隈之城郡役所」が、伊佐郡を含む薩摩郡、出水郡、高城郡、甑島郡を管轄することになりました。

そして、明治20年（1887年）5月9日に、伊佐郡から牛山郷の区域を分離する形で北伊佐郡が設けられました。この時、「牛山郡役所」が里村に設置され、北伊佐郡は菱刈郡と共にこの郡役所の管轄となりました。北伊佐郡が成立した後、明治22年（1889年）4月1日には町村制が施行され、郡内の村は再編されて3つの村が誕生しました。鳥巣村、川岩瀬村など9村が合併して羽月村が、里村、原田村など8村が合併して大口村が、そして山野村、小木原村など4村が合併して山野村がそれぞれ成立しました。

しかし、北伊佐郡の行政区画としての期間は長くありませんでした。明治30年（1897年）4月1日には、全国的な郡制の施行に伴う再編が行われました。これにより、「牛山郡役所」が管轄していた北伊佐郡の区域と、同じく管轄下にあった菱刈郡の一部地域が統合され、再び「伊佐郡」として編成されることになりました。この再編に伴い、北伊佐郡は同日をもって廃止されました。このように、北伊佐郡はわずか10年足らずという、歴史上非常に短い期間のみ存在した郡でした。その旧区域は、現在の伊佐市の行政区域に引き継がれています。

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