奏任官

奏任（そうにん）とは

奏任とは、日本の官吏の任官手続きの一種で、上奏を経て官職に任ぜられること、またはその官職自体を指します。特に官職を指す場合は「奏任官（そうにんかん）」と呼ばれました。奏任は、律令制から明治時代にかけて存在した制度で、官吏の階級を定める上で重要な役割を果たしました。

律令制における奏任

律令制においては、太政官が天皇に上奏し、その許可を得て官職に任ずることを奏任としました。勅任以外の官職はすべて奏任とされ、奏任官の上位には勅任官が、下位には判任官が位置づけられました。

明治時代の奏任

明治時代になると、1868年の政体書によって官等が定められ、奏任は勅任と判任の中間に位置づけられるようになりました。当初は官位相当制が用いられ、正五位相当以下、従六位相当以上が奏任とされました。その後、官制の改正に伴い、奏任の範囲や扱いも変化していきました。

太政官制における奏任

1868年、明治政府は奏任官を勅授官・奏授官・判授官に区別し、政体書の官等制で第四等官と第五等官を奏授官としました。第四等官は行政官の権弁事、第五等官は議政官や行政官の史官などでした。この時の俸給は月給制でしたが、戊辰戦争の影響で、関東平定まで減額されました。

1869年には職員令が制定され、官位相当制において、正五位相当以下、従六位相当以上を奏任と定めました。具体的には、神祇官や諸省の官僚、宮内省の侍従などが含まれていました。武官では、大佐が正五位相当、中佐が従五位相当などとされました。

1871年には太政官制が改正され、官位相当制は従四位相当以下、正六位相当以上を奏任としました。さらに同年、官等を15等に定め、文官は四等以下七等以上、武官は五等以下七等以上を奏任としました。

1877年には、官制の簡素化のため、奏任官の官名を「書記官」とし、四等官を大書記官、五等官を権大書記官などとしました。この頃から、司法省や内務省にも八等・九等の奏任官が置かれるようになりました。また、官禄税が設けられましたが、後に廃止され、俸給も元の水準に戻されました。

1885年には、府県立学校長や一等教諭が特別に奏任とされることもありました。また、勲章制度が設けられ、奏任官は勲六等から叙勲されることになりました。

高等官としての奏任官

1886年、内閣制度が導入され、奏任官は高等官の一種として明確に位置づけられました。奏任官の任免は内閣総理大臣が行い、辞令書には内閣の印が押されました。この時、高等官は勅任官と奏任官に分けられ、奏任官は六等に分けられました。

奏任官の文官の年俸は、一等から六等まで等級が設けられ、それぞれの等級に上級俸、中級俸、下級俸が設定されました。武官は、大佐が奏任一等、少尉が奏任六等とされました。

1890年には、高等官官等俸給令が改正され、奏任官の昇進に必要な在職年数が短縮されました。また、各省の局長を勅任または奏任と定め、局次長を奏任とするなど、官制が整備されました。

1891年には、高等官任命及俸給令が制定され、官等が廃止されましたが、奏任官の区別は維持されました。俸給は職給俸となり、初任奏任官に支給できる俸給額には上限が設けられました。同年に文武高等官官職等級表が定められ、高等官の官職が10等級に分けられ、奏任は四等から十等までとされました。

1892年、高等官官等俸給令が再度制定され、官等が復活しました。高等官は9等に分けられ、三等官から九等官までが奏任官とされました。奏任官の任官や昇叙は内閣総理大臣が行い、辞令書には内閣の印が押されました。

大日本帝国憲法下における奏任官

大日本帝国憲法下では、奏任官は文官と武官に分かれました。文官は、採用形態や勤続年数、職務によって多岐に分類され、判任官からの昇進者や高等文官試験合格者など様々な経歴の者がいました。技官では、技師と呼ばれ、判任官の技手からの昇任者や帝国大学卒業者が任じられました。奏任官の等級と官名の対応は複雑でしたが、各等級に相当する役職は大まかに定められていました。

武官は、大佐から少尉までの士官が該当し、それぞれ奏任官一等から六等に相当しました。少尉は、士官学校や兵学校の卒業者、下[[士官]]からの昇任者などが任じられました。

奏任制度の廃止

1946年、官吏任用叙級令が公布され、「奏任官」は「二級官吏」に改められました。1947年の日本国憲法施行に伴い、奏任制度は正式に廃止され、現に奏任の官であった者は二級官吏となりました。これにより、長きにわたって日本の官吏制度を支えてきた奏任の制度は歴史に幕を閉じました。

奏任官の例

奏任官には、以下のような官職がありました。

各省課長/参事官/書記官
師範学校長
大学教授
府県部長
各省理事官/事務官
各省技師
中学校長
中央郵便局長
中学校教諭
大学助[[教授]]
大規模郵便局長
警視
府県課長
府県技師
郡長
警察署長
小学校長
判事
検事

これらの官職は、奏任官の等級や種類に応じて、様々な役割を担っていました。

まとめ

奏任は、日本の官吏制度において重要な役割を果たした制度であり、律令制から明治時代、そして大日本帝国憲法下まで、その形態を変えながらも長く存続しました。奏任官は、行政の中核を担い、日本の近代化を支える重要な存在でした。その制度は、今日の日本の公務員制度の礎となっています。

参考資料

国立公文書館所蔵資料
JACAR（アジア歴史資料センター）所蔵資料
その他参考文献

この解説を通じて、奏任という制度に対する理解が深まれば幸いです。

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