吉野神社 (花蓮港庁)

吉野神社の歴史

吉野神社は、日本統治時代の台湾、花蓮港庁に存在した日本人移民村・吉野村に建立された神社です。現在、花蓮県吉安郷慶豐村の新市場付近に位置していたこの神社は、移民たちの精神的な拠り所でした。

設立の背景

吉野村一帯は、もともと台湾原住民族アミ族の集落・チカソワン社がありました。しかし、1908年にアミ族が日本官憲に対して蜂起したチカソワン事件が発生。鎮圧後、日本当局はアミ族を追放し、その跡地に日本人移民村・吉野村を設立しました。

1910年、吉野村が開基され、村には宗教施設が存在しませんでした。そこで、台湾総督府は宮前部落に神社用地を設け、住民の信仰に応えることとしました。1912年1月に着工し、同年5月30日に神社は完成。台湾神社から分霊を受け、6月4日に花蓮港に到着した汽船によってもたらされました。当時の台湾総督・佐久間左馬太からの寄付などもあり、同年6月8日に鎮座式が執り行われました。

祭神と増築

吉野神社の祭神は大国魂命、大己貴命、少彦名命、そして能久親王でした。1914年には拝殿が、1924年には玉垣が増築されました。

祭典

花蓮港庁には、吉野村の他に林田、豊田にも日本人移民村がありましたが、吉野神社では特に頻繁に祭礼が行われていました。主な祭典としては、元始祭（1月1日）、祈年祭（6月8日）、大祓祭（6月30日、12月31日）、除夜祭（12月31日）、始政紀念祭、天長節、神嘗祭などがありました。

吉野神社の例祭日は当初6月8日でしたが、農繁期であり、酷暑の時期でもあったため、1923年に10月8日に変更されました。

神職

吉野神社には、以下の神職が務めていました。

深澤勘作: 1930年から1939年
池上繁之: 1940年から1945年

戦後の変遷

戦後、吉野神社の跡地は慶豊市場と芸術村となりました。しかし、市場の裏側には「拓地開村」「鎮座記念」の記念碑が残されています。また、記念碑の横にあるクスノキの大木は神社造営時に植えられたもので、伐採しようとしたところノコギリの刃が折れたため、神木として大切にされています。


現在では、神社の建物は残っていませんが、その歴史と存在を伝える記念碑と神木が、かつての移民村の記憶を静かに伝えています。

もう一度検索