吉野鉄道テハ1形電車

吉野鉄道テハ1形電車とは

吉野鉄道テハ1形電車は、現在の近鉄吉野線の前身である吉野鉄道が、1923年の路線電化に合わせて導入した電車です。本形式は、同形のテハニ100形、ホハ11形、ホハニ111形などと共に、吉野鉄道の輸送力増強に大きく貢献しました。

誕生の背景

吉野鉄道は、1912年に吉野口駅から吉野駅（現在の近鉄六田駅）間を開業。その後、桜井線畝傍駅への接続と輸送力増強のため、1923年に全線を電化しました。この電化に合わせて製造されたのが、テハ1形をはじめとする一連の車両です。

車種構成

これらの車両は、以下の4形式で構成されています。

1923年竣工
テハ1形: 制御電動車（Mc） テハ1 - 6
テハニ100形: 制御電動車（Mc） テハニ100 - 101
1924年3月竣工
ホハ11形: 付随車（T） ホハ11 - 16
ホハニ111形: 付随車（T） ホハニ111 - 112

製造はすべて川崎造船所が担当しました。

車両構造

4形式とも、ダブルルーフで妻面がフラットな非貫通3枚窓を持つ、16m級の木造車です。全車3扉ですが、荷物室の有無によって側面構造が異なり、テハ1形・ホハ11形は「1D232D232D1」、テハニ100形・ホハニ111形は「d1D'1D1332D1」となっています。連結器は当初、バッファー付きスクリュータイプでした。

主要機器

主電動機には、[ウェスティングハウス・エレクトリック]製のWH-540JD6（41kW）を4基搭載。制御器はHL形、ブレーキは非常直通ブレーキを採用しました。当時、大阪鉄道の車両は輸入品を多用していましたが、本系列は制御器やブレーキなど、全て国産品で構成されています。台車は鉄道省TR10系を装備しました。

その後の改造と変遷

1941年に関西急行鉄道（関急）が成立すると、1942年から1943年にかけて形式称号が整理され、以下の通り改番されました。同時に、ホハ11形とホハニ111形は制御車に改造されています。

テハ1形テハ1 - 6 → モ5151形5151 - 5156
テハニ100形テハニ100 - 101 → モニ5161形5161 - 5162
ホハ11形ホハ12・14・16 → ク5421形5421 - 5423
ホハニ111形ホハニ111 - 112 → クニ5431形5431 - 5432


戦時中には、モ5151形とモニ5161形にMGが搭載されました。モ5153は事故で制御車代用となり、1957年に正式に制御車へ変更されました。

モ5151形5153 → ク5151形5153

1955年には、モ5601形の鋼体化に伴い、モニ5161形5161とクニ5431形5432が鋼体化され、サ5701形になりました。この際、車体は半鋼製で両側貫通型となり、南大阪線系統で最初に蛍光灯化された車両となりました。

モニ5161形5161 → サ5701形5701
クニ5431形5432 → サ5701形5702

1956年には、伊賀線に転属したモニ5161形5162がモニ5171形に改番。書類上はクニ5432がモニ5162の機器を流用し電装化された扱いとなっています。

モニ5161形5162 → モニ5171形5171

1960年時点では、全車がA動作弁のA自動空気ブレーキに交換されています。

運用

当初は吉野線で運用されていましたが、改番後はモ5151形・モ5161形は道明寺線や御所線などでも使用されました。ク5421形とクニ5431形5431は名古屋線に転出し、モ5121形と組んで養老線や伊勢線で活躍。モ5153・5156・クニ5431形5432は伊賀線に転属しました。鋼体化されたサ5701形はモ5801形と3両編成を組み、南大阪線系統で使用されました。

廃車と譲渡

ホハ11形のうち、11・15は1933年に一畑電気鉄道に譲渡され、クハ100形(I)となりましたが、後に廃車。13は定山渓鉄道に譲渡され、制御車クハ501を経て客・手荷物合造車クハニ501となり、同鉄道廃止まで残存しました。名古屋線に転属したク5421形とクニ5431形5431は1959年に廃車。モ5151形の一部は1960年に、伊賀線に転属した車両は1960年〜1961年に廃車。最後まで残ったサ5701形も1971年に廃車となり、形式消滅しました。

これらの車両は、木造車から鋼製車への過渡期において、近鉄の路線網を支えた重要な存在であり、その歴史は鉄道史に深く刻まれています。

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