吉開那津子

吉開那津子

吉開 那津子（よしかい なつこ）は、1940年5月16日に東京で生まれた日本の作家です。夫は、機関紙連合通信社の代表取締役などを務めた相羽宏紀氏です。

経歴

早稲田大学を卒業後、作家としての道を歩み始めました。彼女の文学活動の重要な契機となったのは、1967年に行われた日本共産党創立45周年を記念する文芸作品募集への応募でした。この時、彼女の小説「旗」が入選を果たし、これを機に作家として認められるようになります。

文学界での活動としては、日本民主主義文学会において要職を歴任しています。1999年には副会長に就任し、2007年には会長に選ばれました。会長職は2011年まで務めました。

代表作『前夜』

吉開那津子の代表作として特に知られるのが、1980年に発表された小説『前夜』です。この作品は、1960年代に山口県を中心に発生した、いわゆる「中国盲従グループ」と呼ばれる党派の分裂騒動を背景に、日本共産党員たちが直面した困難と、それにどう立ち向かったのかを描いています。作品の舞台は山口県を中心とし、党の末端組織である細胞（現在の支部）に属する人々の姿を追っています。

物語の中心となるのは、細胞の責任者である細胞長の運転手を務める福家と、同じ細胞のメンバーである車掌の勢津子といった、市井の人々です。作中では、彼らを取り巻く環境として、勤務先の西日本電軌における労働組合の活動や、共産党の組織運営、さらには日中友好協会の活動などが描かれています。党内で「日本共産党地区委員会＜左派＞」という分派が結成され、組織が揺れる中で、党員それぞれの人間性が浮き彫りになります。当初は分派の主張に批判的な立場を取りながらも、精神的あるいは人間的な弱さから引き込まれてしまう者、逆に、事態の本質を見極められずに動揺していたものの、やがて分派の本質を見抜いて党の路線を守り抜く立場へと成長していく者など、様々な党員の葛藤と変化が克明に描かれています。

この『前夜』は高く評価され、権威ある「多喜二・百合子賞」を受賞しました。

主な著書

『旗』（新日本出版社、1968年） - デビュー作、後に文庫化
『葦の歌』（新日本出版社、1971年）
『青春の肖像』（新日本出版社、1973年）
『前夜』（新日本出版社、1980年） - 多喜二・百合子賞受賞作
『人生について 女の愛と自立と』（青木書店、1981年）
『消せない記憶―湯浅軍医生体解剖の記録』（湯浅謙述、日中出版、1981年）
『アメリカ・ランニング・アラウンド』（新日本出版社、1982年）
『揺れる窓辺』（新日本出版社、1984年）
『遥かなるフィリス』（青磁社、1986年）
『希望』（新日本出版社、1987年） - 八鹿高校事件を題材とした小説
『緑なす山河』（新日本出版社、1993年）
『夢と修羅』第1部（新日本出版社、1999年）

これらの作品を通じて、吉開那津子は、社会の動きや党組織の内実、そしてそこに生きる人々の葛藤や連帯を力強く描き続けています。

関連事項

日本の小説家一覧
日本共産党（左派） - 『前夜』の題材となった党派の一つ
八鹿高校事件 - 著書『希望』で取り上げられた、部落解放同盟に対する批判が関連する事件

外部リンク

日本民主主義文学会

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