名倉家

名倉家

名倉家は、江戸時代に著名な接骨医、名倉直賢を輩出し、その後代も整形外科医として名を成した一族です。その歴史は古く、桓武天皇の後裔である秩父氏の分家、畠山氏にまで遡ります。

来歴

「名倉」または「奈倉」の姓は、畠山行家が秩父加賀守行家を称し、名倉右京亮を号したことに始まります。戦国時代、武田氏が秩父地方に進出すると、名倉家はその地を離れ、江戸の千住へと移り住みました。千住への移住は、名倉重直（1668年 - 1712年）の代とされています。

名倉弥次兵衛直賢（1750年 - 1827年）は、木村揚甫から人工呼吸法「死活」の術を学びました。1771年（明和7年）には、千住に「骨接ぎ所」を開業し、その名声を確立。以後、名倉家は「接骨術の代名詞」として知られるようになりました。

森鷗外の新聞小説『渋江抽斎』には、「当時流行した接骨家元大坂町の名倉弥次兵衛」として登場し、その流行ぶりは狂歌に詠まれています。葛飾北斎も文化3年（1806年）頃、名倉弥次兵衛に入門し、人体の骨格を学びました。北斎は、これにより人体の描き方を理解したと語っています。夏目漱石の小説『道草』にも、主人公が骨折した際に「千住の名倉」で治療を受けたという描写があります。

東京大学総合図書館の鴎外文庫には、森鷗外自筆の「名倉系図」が所蔵されています。陸軍軍医総監となった石黒忠悳は、青年時代に江戸の麹町で開業していた名倉弥五郎に入門を希望しましたが、西洋医学を勧められたという逸話があります。その後、石黒は名倉直賢から2代後で弥五郎の義弟である名倉知文（1841年 - 1898年、眞斎）と同じ陸軍軍医として親交を結びました。この石黒と弥五郎のやり取りは、司馬遼太郎の小説『胡蝶の夢』にも登場します。

直賢から5代目となる名倉謙蔵（1866年 - 1939年）は、1931年に東京・駿河台に整形外科病院「名倉病院」を開設しました。6代目の名倉重雄（1894年 - 1985年）は、名古屋帝国大学教授として整形外科学講座を開設し、東京厚生年金病院長を務めました。夫人は高橋是清の孫娘です。

「骨接ぎ」の代名詞として、「名倉」の名は江戸を舞台とするドラマや小説に登場しています。必殺仕事人の「必殺シリーズ10周年記念スペシャル 仕事人大集合」でフランキー堺が演じる名倉堂与市や、山手樹一郎の小説「江戸の暴れん坊」「おたすけ町医者恋情剣」の主人公、名倉鳶太郎などがその例です。現在でも多くの接骨院が名倉の名前を継承しています。

建築物

当主名倉市倉尚壽の代には、旧診療所が12代将軍家慶より「千住御鷹野御成の御休息所申し付くるものなり」との内示を受け、大改修が行われました。実際に休息されたのは、当時の将軍ではなく後に13代将軍となった家定でした。現存する建物は、当時のものに縁側部分を増築したものと考えられています。庭園は当時の半分以下の大きさですが、樹齢100年以上と推定される樹木が樹木医の手によって養生保存されています。また、名倉家の蔵も現存する建物として紹介されています。

脚注

関連項目

名倉医院
「奈倉館と名倉堂」奈倉展特別展記念講演：講師山本正実先生

もう一度検索