名古屋市史

名古屋市史は、名古屋市の自治体史として、明治時代以降に3度にわたって編纂されてきました。それぞれの時代における名古屋の歴史、社会、文化を記録し、後世に伝える重要な役割を担っています。編纂に使用された資料の一部は、名古屋市鶴舞中央図書館や名古屋市市政資料館に保存されており、研究者や一般市民が利用できるようになっています。

初代「名古屋市史」

最初の名古屋市史は、1907年（明治40年）に市史編纂室が設置されたことから始まりました。東京帝国大学教授の上田萬年を顧問に迎え、1915年（大正4年）から1916年（大正5年）にかけて全10巻が刊行されました。編纂には『金城温古録』の著者である奥村定も関わっています。内容は明治時代までの名古屋市に関するもので、都市の形成、産業の発展、社会の変化などを詳細に記述しています。1934年（昭和9年）には、人物編として2巻が追加刊行され、より多角的な視点から名古屋の歴史を捉えています。1980年（昭和55年）には、愛知県郷土資料刊行会から復刻版が刊行され、広く一般に読まれるようになりました。

「大正昭和名古屋市史」

二度目の編纂は、初代「名古屋市史」刊行から30年以上が経過し、名古屋市が大きく発展したことを背景に、1940年（昭和15年）に紀元二千六百年と名古屋市制五十周年を記念する事業として計画されました。編纂主任には、大蔵省の『明治大正財政史』で主任を務めた吉川秀造、顧問には『明治大正大阪市史』の編纂を手掛けた本庄栄治郎が迎えられました。1941年（昭和16年）から編纂が開始されましたが、太平洋戦争の影響で作業は遅れ、1948年（昭和23年）9月にようやく脱稿しました。しかし、戦後の財政難により刊行は遅れ、1953年（昭和28年）にようやく刊行されました。内容は、大正時代から昭和12年までを扱っており、都市の拡大、産業構造の変化、社会運動など、当時の名古屋市が直面していた課題や変化を詳細に記録しています。1959年（昭和34年）には、市政七十周年記念事業として、昭和13年から昭和32年までを扱う続編の刊行が計画されましたが、執筆の遅れ、経費超過、大学紛争などの影響で昭和46年度に事業は中止となりました。なお、この計画に先立ち、1959年に名古屋市総務局から『名古屋七十年史』が刊行されています。

「新修名古屋市史」

三度目の編纂は、1979年（昭和54年）に市政90周年記念事業として検討が始まり、市政100周年記念事業として1991年（平成3年）から本格的に開始されました。編纂は「新修名古屋市史編集委員会」が担当し、名古屋市市政資料館内に事務局が置かれました。1997年（平成9年）に第1巻が刊行され、当初は「本文編」全10巻で完結する予定でしたが、編纂委員や市民から資料公開の要望が強かったため、「資料編」の刊行も決定されました。2006年から2014年にかけて「資料編」全11巻が刊行され、市民の知的好奇心に応えると共に、名古屋の歴史研究に大きく貢献しました。これに先立ち、1989年（平成元年）には名古屋市総務局から『名古屋100年』が刊行されています。

これらの名古屋市史は、それぞれの時代における社会状況や編纂方針を反映しており、名古屋の歴史を多角的に理解するための重要な資料となっています。編纂に携わった多くの専門家や関係者の努力によって、今日に伝えられていることは特筆すべきでしょう。


参考文献
新修名古屋市史編集委員会 『新修名古屋市史 第10巻 年表・索引』 名古屋市、2001年

関連項目
金城温古録

もう一度検索