名古屋鉄道鳴海工場

鳴海工場（なるみこうじょう）

鳴海工場は、名古屋鉄道（名鉄）が所有する鉄道車両の検査・修繕を行うための施設として、1930年（昭和5年）から1997年（平成9年）まで存在しました。名古屋本線の鳴海駅に隣接しており、同じ敷地内には鳴海検車区も併設されていました。

敷地は鳴海駅の南東に位置し、工場と検車区を合わせた総面積は約21,086平方メートル、建物の合計面積は約9,666平方メートルでした。主に架線電圧1,500ボルトの路線で使用される車両（瀬戸線車両と気動車を除く）の重要部検査および全般検査を担当しており、1996年（平成8年）時点では年間およそ430両の検修能力を有していました。また、製造から20〜30年を経過した車両に対して、更新修繕工事（当初は「重整備」、後に「特別整備」と呼ばれました）を年間12両程度実施していました。なお、鳴海検車区は敷地を共有していましたが、社内組織上は鳴海工場の直接の管轄ではなく、新川工場の管轄下にありました。

1990年代に入ると、名鉄の保有車両が増加し、鳴海工場の施設が手狭になってきたことに加え、設備の老朽化や陳腐化が進行しました。さらに、鳴海駅周辺の都市整備計画に基づく高架化工事が具体化したこともあり、鳴海工場は愛知県岡崎市舞木町に建設される新しい車両検修施設、舞木検査場へ機能を移転することが決定しました。1996年度末をもって鳴海工場および鳴海検車区は閉鎖され、車両の検修業務は舞木検査場へ、検車区としての機能は1999年（平成11年）に豊明駅隣接地に開設された豊明検車区へとそれぞれ引き継がれました。

歴史

鳴海工場の前身は、名鉄のルーツの一つである愛知電気鉄道が、神宮前駅と矢作橋駅にあった車庫機能を統合・移転して1930年（昭和5年）3月28日に開設した「鳴海車庫」です。愛知電気鉄道と名岐鉄道の合併を経て現在の名鉄が発足した後、1940年（昭和15年）に鳴海工場と改称されました。第二次世界大戦中は混乱が続く中、自社で使用する電車や電気機関車の製造も手掛けました。

戦後、1954年（昭和29年）1月からは、主要幹線系統の車両を専門に検査する工場となりました。この際、検修作業の効率向上と合理化を目指し、「タクト・システム」と呼ばれる独自の作業工程が導入されました。このシステムは、それまで一箇所でまとめて行っていた車両検査作業を、内容ごとに細分化された工程に分けて流れ作業とし、一定時間ごとに次の工程へ車両を一斉に移動させるものでした。まるで指揮者（タクト）に合わせて楽器奏者が動く楽団に例えられたことから、この名称が付けられました。タクト・システムでは、入場車両の状態や仕様に関わらず、各工程に同じ時間を割り当てるため、作業時間に過不足が生じるという欠点もありましたが、当時の鳴海工場の設備仕様などを考慮した結果、最適なシステムとして導入されました。具体的には、各作業段階を「タクト」と呼び、工程間の車両移動にはワイヤーロープが使用されました。全般検査では1タクトに1日、重要部検査では1タクトに半日を要するスケジュールで作業が行われました。

工場は開設以来、敷地拡張や建屋の抜本的な改修が行われなかったため、後年の輸送力増強に伴う車両数の増加に対応しきれなくなり、検修能力の不足が指摘されるようになりました。また、設備自体の老朽化や技術的な陳腐化に加え、保守の手間がかからない車両が増えても、最も作業時間のかかる車両に合わせて全体の工程を進めなければならない「タクト・システム」の非効率性が無視できなくなっていました。これらの問題を解決するため、名鉄は1980年代から新たな検修施設の建設を検討し始めました。

そして、1992年（平成4年）に名古屋市の都市計画事業として鳴海駅周辺の鉄道高架化（連続立体交差化）事業が正式に決定したことを受け、名鉄は岡崎市舞木町に新検修施設（舞木検査場）を建設し、鳴海工場の機能を移転することを最終決定しました。舞木検査場は1997年（平成9年）3月に完成し、同年4月から稼働を開始しました。これに伴い、鳴海工場・検車区は1997年（平成9年）3月末をもって閉鎖されました。先述の通り、検車区機能については、少し遅れて1999年（平成11年）に豊明駅隣接地に新設された豊明検車区へと引き継がれました。

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