名立機雷爆発事件

太平洋戦争終結から4年後の1949年（昭和24年）3月30日、新潟県西頸城郡名立町（現在の新潟県上越市名立区）小泊の海岸に、国籍不明の機雷が漂着しました。この日は春休み期間中で、穏やかな海と暖かな陽気の中、大人たちが漁や農作業に出かける一方、集落では多くの子供たちが遊び回っていました。

午後4時頃、沖合約300メートルに不審な浮遊物があるのを漁師が目撃しましたが、当時は機雷とは認識されませんでした。やがてその物体は波打ち際へと接近し、「二つ岩」と呼ばれる岩場のわずか7メートル手前まで漂い着きます。ドラム缶のような形状に、取っ手や突起物が付いているのを見た住民は、その正体が機雷ではないかと恐れを抱き、地元の駐在所に通報しました。

通報を受けて駆けつけた巡査は、元海軍軍人としての知識から、これが触角に触れると爆発する触角機雷であると直感しました。巡査は、機雷を町の東端にある鳥ヶ首岬まで運び出すことを計画し、同行した消防団長に救援を求めるとともに、近くにいた女性に機雷を船で牽引するためのロープの手配を依頼しました。巡査は岩場に間際で波に揺れる機雷に近づくため、ズボンの裾をまくり、海中へと歩み出しました。その時、機雷が大岩に接触。次の瞬間、轟音とともに機雷は爆発しました。

この爆発により、現場に居合わせた巡査や見物人ら、合わせて63名が命を落としました。不幸にも、事態に気付き、現場に集まってきた子供たちが多数巻き込まれました。避難誘導を行う時間も人手もないまま爆発を迎えたことが、人的被害を一層拡大させた要因の一つとされています。犠牲者のうち59名が未成年者でした。

家屋への被害も甚大で、103棟が損壊し、そのうち44棟が全壊またはそれに近い状態となりました（別資料では家屋300戸が全半壊、破損73戸とする記述もあります）。爆発の威力は凄まじく、機雷の破片は300メートル離れた寺院脇の畑まで飛散したことが確認されています。

惨状

巡査からロープを取りに行くよう頼まれた女性は、自宅に戻る途中で巡査が機雷を見つめ、服を脱いでズボンの裾をまくり始めるのを目撃しました。家に入り、裏口の肥桶の蓋を直そうとしたその時、激しい爆発音と共にひさしが落下し、女性は下敷きになりました。這い出て家の中を見ると壁は吹き抜け、外では近所の女性が背負っていた子供が投げ出されていました。海のほうを見ると、無数の子供たちが集まっていたはずの場所には何も見えず、ただ海が広々と広がっているだけでした。石垣のそばに出ると、血まみれで倒れ、体の一部を失った子供たちの無残な姿がありました。皆死んでしまったかと思った時、「助けて」と叫ぶ二人の子供の声が聞こえました。

女性は、見物に来ていた二人の息子を探し始めましたが、変わり果てた姿に、着物でしか判別がつきませんでした。やがて聞こえた「助けて」という声の方を見ると、一目で助からないと分かる男の子の姿があり、言葉にならない声を発して見守るしかありませんでした。その後、11歳の息子を見つけましたが、頭部の半分が失われていました。あまりの出来事に涙も出ないまま、もう一人の子を探しました。石垣の下に降りると、14歳の息子が立ったまま石垣に寄りかかるように息絶えていました。傷はなく、目は半分開いたままでしたが、まだ温かかったため、女性は長い間体をさすり続けましたが、息子が息を吹き返すことはありませんでした。

翌3月31日、海岸で犠牲者のための合同火葬が執り行われました。遺族によって運ばれてきた棺は薪の上に並べられ、ワラで覆われました。蝋燭が灯され、線香の煙が立ち昇る中、ワラに重油がかけられ、火が放たれました。呆然自失とする親族が見守る中、炎は夜まで燃え続け、多くの命を包み込みました。

原因となった機雷の来歴

爆発により機雷自体が消失し、また危険物排除にあたった巡査が殉職したため、事故を引き起こした機雷の正確な来歴を特定することはできませんでした。しかし、いくつかの可能性が指摘されています。

太平洋戦争末期、アメリカ軍は日本の海上交通路を遮断する「飢餓作戦」の一環として、新潟を含む各地にドラム缶型のMk25/36機雷を大量に空中投下していました。このため、今回の機雷もアメリカ軍のものであるという見方が有力です。一方、旧日本海軍が防御目的で敷設し、戦後も掃海されずに残された大深度係維式機雷が、老朽化により係留ケーブルが切断して浮上流出していた可能性も指摘されています。さらに、1949年頃にはソビエト連邦製の係維式機雷も同様に浮遊する事例が増加しており、旧日本海軍製のものよりも多くなりつつあったとの記録もあります。

難を逃れた女性の回想では、機雷は「赤黒く、ドラム缶に似た形」、両端に「持つところ」があり、「中ほどには、時計のメーターのようなものが突き出ていて、メーターの針がゆれているのが見られた」と描写されています。漂着直前に沖合で目撃した漁師は、「直径1メートルくらいの硫酸甕（るさんかめ）のような卵形」、4箇所に「持つところ」があり「黒光りしていた」と証言しており、これらの証言は機雷の種類を特定する手がかりとはなっていますが、決定的な証拠には至っていません。

後世への伝承

多くの子供たちが犠牲となったこの痛ましい事件の記憶と、平和の尊さを次の世代に伝えるため、様々な取り組みが行われています。地元の小学校では、事件を知る人々を招いた語り部学習会が定期的に開催されています。2010年には、地元の有志団体が被害者や遺族の証言を記録した約2時間におよぶドキュメンタリーDVDを制作しました。また、2011年には、事件発生日に合わせ、地元の演劇サークル「いろり座」が事件を題材とした演劇「明日への伝言」を上演しました。さらに、2014年からは毎年3月の最終日曜日を「名立・平和を願う日」と定め、平和記念式典が行われています。

事件現場の「二つ岩」の上には「機雷爆発の地」を示す石碑が設置されており、また慰霊塔や地蔵尊なども建立され、犠牲者の冥福と平和への願いが捧げられています。これらの取り組みを通じて、名立機雷爆発事件の悲劇は、単なる過去の出来事として忘れ去られることなく、地域の人々にとって平和を希求する原点として語り継がれています。

年表

1949年 3月30日 17時23分：機雷爆発発生。
1949年3月31日：名立町海岸にて犠牲者の合同火葬が行われる。
1949年4月4日：名立寺にて合同葬儀が行われる。
1949年8月15日：名立小泊の無縁塚に建立された慰霊塔の入仏式が行われる。
1949年11月6日：慰霊塔近くに建立された「平和をまもる」碑の除幕式を挙行。
1950年：「二つ岩」の上に「機雷爆発の地」石碑を設置。
2010年3月：国道拡張に伴い、地蔵堂を漁港敷地内へ移設。
2010年12月：証言を記録したDVDが制作される。
2011年3月30日：演劇「明日への伝言」が上演される。
2014年3月30日：毎年3月の最終日曜日が「名立・平和を願う日」と定められ、第1回式典を開催。記念。

もう一度検索