名鉄瀬戸線脱線転覆事故

名鉄瀬戸線脱線転覆事故の概要

名鉄瀬戸線脱線転覆事故は、1948年（昭和23年）1月5日の午前10時15分頃に、愛知県東春日井郡守山町大字大森（現在の名古屋市守山区大森三丁目）を走行していた名古屋鉄道瀬戸線で発生した列車事故です。

この日、尾張瀬戸駅を出発し堀川駅（現在は廃止）へ向かっていた急行列車が、大森駅（現在の大森・金城学院前駅）の東側にあるカーブ区間に差し掛かった際、編成の後部に連結されていたサ2240形2241号車が脱線し、線路から外れて転覆しました。

転覆した車両はそのまま約50メートルにわたって引きずられ、その衝撃で先頭の電動車であったモ560形565号車も転覆し、架線鉄柱に激突して大きく損壊しました。

この事故により、乗客39名が犠牲となり、200名が負傷するという、名鉄瀬戸線史上最悪の人的被害を伴う惨事となりました。

事故発生後の対応

事故発生当時、日本は連合国軍の占領下にありました。救助活動は、アメリカ軍憲兵の指揮のもと、警察や地元消防団員が連携して行われました。犠牲者の遺体は、名鉄喜多山クラブハウスに収容されました。

事故現場を含む大森駅と旭前駅（当時は印場駅が廃止中）の間は不通となり、この区間については、名古屋鉄道のトラックによる代替輸送が行われました。

事故原因の詳細

警察によるその後の詳しい調査の結果、事故の主な原因は、運転士の操作ミスにあると結論づけられました。

調査によると、運転士は三郷駅付近を通過するまで、自身が運転している列車が急行であることを十分に認識しておらず、次の駅を通過した後にようやく急行列車であることを思い出したとされています。このため、大森駅東側にある法輪寺裏手のカーブに差し掛かる際に、慌てて急ブレーキをかけたことが判明しました。

しかし、このブレーキ操作が後部の車両にうまく伝わらず、後部車両であるサ2240形がブレーキの利き始めと速度慣性とのバランスを崩して線路から浮き上がり、脱線・転覆に至ったと考えられています。

事故の背景となった複合的要因

この事故の背景には、運転士の操作ミスに加え、複数の要因が複合的に絡み合っていました。

運転士の未熟さ: 事故を起こした運転士は、この日まで乗客を乗せた列車を一人で運転した経験がない新人でした。さらに、当日の乗務は本来の予定ではなく、先輩からの依頼を受けて急遽担当することになったものでした。
車両側の問題: 当時使用されていた車両には、速度計が搭載されていませんでした。このため、運転士は列車の正確な速度を把握することが困難でした。
線路条件: 事故現場となったカーブは、勾配を下りながら半径160メートルという、当時の法定許容範囲ぎりぎりの急曲線でした。こうした線路条件が、高速走行時の安定性を損なう一因となりました。
当日の状況: 事故当日は熱田神宮の初えびす祭りの日で、列車は初詣客などで極めて混雑しており、乗客がすし詰め状態でした。この過密な乗車状況が、脱線転覆時の被害をさらに拡大させる結果となりました。

これらの要因が複合的に重なり合った結果、悲惨な事故が発生したとされています。事故現場には、凄惨な状況の中で、乗客が持っていたと思われる晴れ着や餅などが散乱していたといいます。

事故後の対応と車両の行方

事故後、犠牲者を悼み、また二度とこのような事故が起こらないよう、様々な取り組みが行われました。

1948年（昭和23年）5月には、地元の法輪寺住職である江口耕雲氏が発起人となり、事故現場近くに交通安全地蔵が建立されました。翌1949年（昭和24年）1月には、事故の一周忌にあわせ、当時の名古屋鉄道社長であった神野金之助氏の筆による「殉難の碑」も建立され、犠牲者の慰霊が行われています。

また、事故現場付近を含む名鉄瀬戸線のカーブ区間などで、線路の曲線改良工事が実施され、列車の運行安全性の向上が図られました。

事故により大破した車両のうち、サ2240形2241号車とモ560形565号車は、いずれも丁寧に修復され、再び営業運転に復帰しました。

サ2240形2241号車はその後、豊橋鉄道に譲渡されてク2240形（2241号）として形式名が変更され、1969年（昭和44年）まで運用されました。モ560形565号車も、後に名鉄の揖斐線に転用されてモ760形（765号）に改称されました。さらに1973年（昭和48年）12月には北恵那交通に譲渡されて北恵那鉄道モ565号となり、1978年（昭和53年）の北恵那交通・北恵那鉄道線の廃止まで、最期まで運行されました。

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