向井元升

向井元升（むかい げんしょう）：江戸時代の本草学者、医師

向井元升は、慶長14年（1609年）に肥前国神埼郡酒村（現在の佐賀県神埼市）に生まれ、延宝5年（1677年）に没した江戸時代の本草学者、医師です。本草学、医学において多大な功績を残しました。

生涯

幼名は元松と称し、後に元升と改名しました。5歳で父と共に長崎へ移り住み、医学を独学で学びました。22歳で医師として開業し、その才能を開花させます。慶安4年（1651年）には、ポルトガル人宣教師クリストヴァン・フェレイラの訳稿を基に、天文書『乾坤弁説』を著しました。これは、当時の西洋科学への関心の高さを物語るものです。

承応3年（1654年）には、幕府の命により、オランダ商館の医師ヨアン（Hans Joan）から通訳を介して聞き取りを行い、『紅毛流外科秘要』全5巻を編集しました。これは、当時の西洋医学、特に外科に関する貴重な情報源となりました。

万治元年（1658年）には、家族と共に京都へ移り住み、医師として活動を続けました。寛文11年（1671年）には、加賀藩主の前田綱紀から依頼を受け、『庖厨備用倭名本草』を著します。この書物は、中国の『東垣食物本草』などを参考に、食品460種を選び出し、それらに倭名、形状、食性能、毒性などを加えたもので、当時の食文化を知る上で重要な資料となっています。

家族

向井元升は、三人の息子にも恵まれました。長男の元端は一条家の儒医となり、次男の去来は俳人として名を馳せ、三男の元成は儒学者として活躍しました。向井家は、学問、芸術の分野で才能を発揮する人材を輩出した家系と言えるでしょう。

追贈

大正4年（1915年）には、その功績が認められ、正五位を追贈されました。これは、彼が日本の学術、文化に貢献したことを示すものであり、その業績は後世まで高く評価されています。

著書

乾坤弁説
紅毛流外科秘要
庖厨備用倭名本草

参考文献

『日本博物学史』上野益三（著）平凡社（1986年補訂版）
『江戸の本草 薬物学と博物学』 矢部一郎（著）サイエンス社（1984年）
『南蛮系宇宙論の原典的研究』平岡 隆二（著）花書院（2013年）
* 「儒医向井元升と西洋医学・本草学の受容について」ヴォルフガング・ミヒェル（著）。若木太一編『長崎・東西文化交渉史の舞台』上巻、勉誠社 (2013年)、161-186頁

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