君島一郎 (銀行家)

君島一郎：銀行家から野球研究者へ至る波瀾万丈の人生

君島一郎（1887年-1975年）は、日本の銀行界と野球研究史において特筆すべき足跡を残した人物です。栃木県塩原温泉の旧家で生まれ育ち、幼少期から恵まれた環境の中で過ごしました。父は君島五郎氏で、代々温泉宿「明賀屋」を営む名家でした。

1905年に栃木中学校（現・栃木県立宇都宮高等学校）を卒業後、旧制第一高等学校に進学。在学中は野球部に所属し、二塁手として活躍しました。この頃には、のちに著名な作家となる谷崎潤一郎氏と親交を深めています。第一高等学校での経験は、彼の人格形成に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

1912年には東京帝国大学法科大学経済学科を卒業し、日本銀行に入行します。その後、日銀検査役や各地支店長などを歴任し、銀行家としてのキャリアを着実に積み重ねて行きました。1940年から1945年にかけては朝鮮銀行副総裁という要職に就きますが、敗戦後の1947年から1951年までは公職追放の憂き目にあいました。

公職追放後、君島氏は新たな人生のステージに足を踏み入れます。財団法人友邦協会会長に就任し、勲二等旭日重光章を受章するなど社会貢献にも尽力しました。しかし、彼の真の情熱は、長年温めてきた野球研究に向けられていました。

明治時代の日本野球草創期に強い関心を抱いていた君島氏は、この分野の研究に没頭します。1971年には学士会会報に「日本野球発祥の地―それは今の学士会館本館敷地」「野球渡来諸説」を発表し、1872年に日本に野球が伝わり、その発祥の地は現在の学士会館本館跡地であるとする独自の学説を提唱しました。翌年には、これらの研究成果をまとめた著書『日本野球創世記』を刊行しました。

これらの研究活動は、日本の野球史研究に多大なる貢献を果たしました。特に、日本の野球発祥の地を巡る論争に新たな視点をもたらしたことは高く評価されています。

君島氏は、銀行家としての成功、公職追放という苦難、そして野球研究者としての充実した晩年と、波瀾万丈の人生を送りました。88歳で逝去したものの、2009年には野球殿堂入りを果たし、その功績は今もなお語り継がれています。

彼の生涯は、常に挑戦を続け、新たな境地を切り開いていくことの大切さを教えてくれる、貴重なものです。銀行家としての経験、そして野球研究者としての功績、いずれもが彼の多才さと旺盛な探究心、そして日本社会への貢献を示しています。

家族・親族

君島氏の家族や親族にも、著名な人物が複数存在します。叔父には九州帝国大学（現九州大学）教授を務めた君島武男氏がいます。また、妻は瀧澤民の妹で、祖父は貴族院議員を務めた滝沢喜平治氏です。これらの繋がりも、君島氏の生きた時代背景を理解する上で重要な要素となるでしょう。

参考文献

君島一郎氏の生涯や業績を知る上で、様々な資料が役立ちます。彼の著書『朶寮一番室 谷崎潤一郎と一高寮友たちと』は、第一高等学校時代や谷崎潤一郎氏との交流について貴重な情報を提供しています。また、当時の名簿や人事録なども、彼の足跡をたどる上で重要な資料となります。

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