朝鮮銀行

朝鮮銀行：日韓併合期における金融の中枢

1911年設立の朝鮮銀行は、日本統治時代における朝鮮の金融の中枢として重要な役割を担った特殊銀行でした。その歴史は、日韓併合以前の第一銀行の活動にまで遡り、複雑かつ興味深い展開を辿ります。

黎明期：第一銀行の朝鮮進出

1876年の釜山港開港を機に、日本の第一銀行（後の第一勧業銀行、現みずほ銀行）は朝鮮半島に進出します。当初は釜山支店、元山出張所、仁川出張所を設置し、金の買付や海関税の取扱いを主な業務としていました。しかし、その過程で第一銀行は独自の韓銭手形を発行し、朝鮮における金融システムに大きな影響を与えました。邦人商人の間では、不便な常平通宝に代わる決済手段として広く利用されたのです。1902年以降は、第一銀行券が韓国の公用紙幣として流通するようになり、事実上の中央銀行としての機能を果たすようになりました。

韓国銀行から朝鮮銀行へ

しかし、民間銀行である第一銀行による中央銀行業務は、国際的な観点から問題視されていました。そこで、日韓併合直前の1909年、大韓帝国政府、日本皇室、韓国皇室そして民間からの資本金によって、中央銀行である韓国銀行が設立されました。第一銀行は、韓国銀行に中央銀行業務を移管しました。そして、日韓併合後の1911年、韓国銀行は「朝鮮銀行」と改称され、日本の特殊銀行として新たな一歩を踏み出します。この際、日本銀行券を朝鮮にも流通させる案もありましたが、松方正義元老の反対により、朝鮮銀行券の発行が決定されました。これは、朝鮮経済の不安定さが日本経済に波及することを防ぐための賢明な判断でした。

朝鮮銀行の業務と経営

朝鮮銀行は、日本政府からの保護を受け、朝鮮銀行券を発行しました。この銀行券は金貨、銀貨、日本銀行券との兌換が保障されており、安定した通貨システムを維持することに貢献しました。また、民間の普通銀行と同様の融資や手形割引業務を行うとともに、朝鮮総督府にも資金を貸し付けていました。しかし、朝鮮銀行は日本国内企業への融資も密かに行い、設立当初の目的である朝鮮の産業育成から次第に逸脱していきました。第一次世界大戦後の不況により、融資の焦げ付きが問題化し、日本政府は1924年、監督権を朝鮮総督府から大蔵省に移管するなど、抜本的な改革を断行しました。

朝鮮銀行は、日本軍の活動にともなって、朝鮮以外に内地、満洲、中国北部、シベリアにも支店を展開しました。満洲においては、満洲興業銀行との共同経営によって業務を拡大しました。また、華北では中国聯合準備銀行を設立し、軍事資金の調達や通貨整理に携わりました。太平洋戦争中は、戦局の悪化にもかかわらず、朝鮮半島の景気は上向きとなり、朝鮮銀行の経営状態も改善されました。1943年には不良債権を一掃し、戦争末期まで存続しました。

戦後の清算と遺産

日本の敗戦後、朝鮮銀行はアメリカ軍政下に置かれ、1950年の韓国銀行設立まで、38度線以南の地域で中央銀行および商業銀行としての業務を継続しました。しかし、1947年には閉鎖機関に指定され、日本法的には解散状態となりました。朝鮮にあった資産は、米ソ両軍政府によって接収され、その後、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の両中央銀行に払い下げられました。一方、日本国内に残った資産を基に、日本不動産銀行（後の日本債券信用銀行、現あおぞら銀行）が設立されました。

朝鮮戦争勃発時には、韓国銀行が朝鮮銀行券の資産・負債を継承し、新たな韓国銀行券の発行準備を進めていましたが、ソウル陥落により、大量の朝鮮銀行券と印刷原版が北朝鮮に奪われました。北朝鮮はこれらを悪用し、経済攪乱工作を行いました。これに対抗するため、日本政府はGHQの命令を受けて、韓国銀行券を製造・納入しました。仁川上陸作戦によるソウル奪還後、韓国銀行は朝鮮銀行券との交換を進め、北朝鮮による経済攪乱工作の被害を最小限に抑えました。

1957年に清算が終了し、朝鮮銀行は完全に消滅しました。朝鮮銀行は、日韓併合期における金融史において重要な役割を果たしただけでなく、戦後の韓国経済にも大きな影響を与え、その歴史は現在まで語り継がれています。

発行紙幣

朝鮮銀行は、第一銀行時代から独自に紙幣を発行していました。紙幣のデザインや使用言語は、時代や政治情勢を反映しており、歴史的価値も高いものとなっています。

歴代総裁

朝鮮銀行の歴代総裁は、日本の金融界や政治界において重要な役割を果たした人物が多く、その経歴も興味深いものです。

参考文献

多田井喜生『朝鮮銀行 ある円通貨圏の興亡』
『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』

関連項目

台湾銀行
韓国銀行
朝鮮中央銀行
日本不動産銀行（あおぞら銀行）

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