君帰

新潟県南魚沼市に位置する君帰（きみがえり）は、郵便番号949-6601が割り当てられた地域です。周囲を山々に囲まれ、豊かな自然に恵まれています。

この地名の由来は、古くから語り継がれる一つの伝承に求められます。平安時代末期、奥州平泉へと落ち延びる途中の源義経が、この地に立ち寄ったとされています。彼が村を去る際、里の人々が別れを深く惜しみ、「君よ、帰りおわすか（あなた様はもうお帰りになるのですか）」と呼びかけながら見送ったという故事に基づき、君帰という名がついたと伝えられています。この名前には、義経への慕情と再訪を願う人々の切ない思いが込められていると言えるでしょう。

君帰地域における歴史と信仰の中心となっているのが、君帰観音堂です。この寺院の始まりは古く、和銅年間（708年 - 715年）に泰澄大師が阿弥陀如来像を安置し、大日堂を建立したことに遡るとされています。特に注目されるのは、文治3年（1187年）のことです。都を追われ奥州を目指していた修験者一行、すなわち源義経一行がこの大日堂に立ち寄り、しばらく滞在したと伝えられています。義経たちは、背負って携えてきた観世音菩薩像と、紺紙金泥で書かれた経巻をこの寺に納め、再び旅立ったとされます。現在、観音堂の本尊として祀られている聖観音立像は、この時、義経一行によって寄進されたものと伝えられています。

鎌倉時代の建久7年（1196年）には、越後国の国主であった出雲守真垣の娘、泰代が、義経公ゆかりの観音像の慈悲にすがるため、かつて大日堂があったとされる稲場平の地に、この聖観世音菩薩像を安置するための三間半四面の堂宇、すなわち庵寺を建立しました。この堂宇への聖観音像の入仏供養は、承久2年（1220年）5月18日に執り行われたと記録に残っています。その後、江戸時代に入ると、寛永年間（1624年 - 1643年）から堂宇の改築が進められ、宝永2年（1705年）には、現在の五間四方（約9メートル四方）の本堂である観世音堂が完成しました。

観音堂の本尊である聖観音立像は、桂材を用いた一木造りの像で、その丈は四尺八寸六分、現代の長さで約1.47メートルに及びます。像の背裏には、「承久二年五月十八日」という建立当時のものと思われる銘文が刻まれています。この像は普段は公開されない秘仏であり、33年に一度だけ扉が開かれ、そのお姿を拝むことができます。その由緒と歴史的価値から、新潟県の指定重要文化財に指定されています。直近では、2018年8月17日から8月19日にかけて、33年ぶりの御開帳が行われ、多くの参拝者が訪れました。

また、観音堂に伝わるもう一つの像、阿弥陀如来像については、別の伝承があります。元々は長福寺の本尊であったとされますが、長福寺が越後一揆に加担したことで、時の権力者であった堀丹後守によって寺が焼かれた際に、この阿弥陀如来像も失われた、あるいは運び出されたと言われています。その後、現在の場所に移されたとされており、元々像が安置されていたとされる場所の付近には、当時の建物の基礎石のような土台が今も確認できるとのことです。

君帰は自然豊かな土地ですが、近年はその環境に変化が見られます。かつては、夏の夜になると清流のほとりで多くのホタルが幻想的な光を放っていましたが、周辺の蟻子山麓の整備による環境の変化や、特に2011年7月末に発生した記録的な大雨に伴う土砂災害によって、ホタルの生息環境は壊滅的な打撃を受け、現在ではほとんどその姿を見ることができなくなってしまいました。

地域には、これらの歴史や自然とは別に、古い言い伝えも残っています。それは、厳しい修行を経て悟りを開いた一人の僧侶が、自らの死期を悟り、村人たちに懇願して生き埋めにされたという壮絶な話です。この伝承に基づくその僧侶の墓とされる場所が、今も君帰地区の墓地の中心付近にひっそりと残されています。

その他、君帰観音堂の近くには、書物を読む人物の像が設置されています。この像は、かつて首の部分が破損していましたが、現在では修復が行われ、本来の姿を取り戻しています。

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