呉 (十国)

呉（902年 - 937年）：江南を駆け抜けた短命な王国

呉は、五代十国時代に江都（現在の江蘇省揚州市）を中心に、江蘇省、安徽省、江西省を支配した国です。その支配領域は江南の豊かな経済力を背景に強大でしたが、建国からわずか35年で、李昪によって簒奪され、南唐へと移行しました。

建国者・楊行密の台頭

呉の建国者である楊行密は、唐末の混乱期に頭角を現しました。彼は廬州合肥県（現在の安徽省合肥市長豊県）出身で、当初は群盗の一員でしたが、後に軍に入り、無頼の徒を糾合して故郷の廬州を占拠しました。唐の懐柔策によって廬州刺史となった後も、周辺地域を切り取り、892年には揚州を占領して「淮南節度使」に任じられました。

その後、長江を遡って中流域をも支配下に置き、一大勢力圏を築きました。南下してくる朱全忠（後の後梁の建国者）との抗争では、淮河を確保し、浙江に拠る呉越とは蘇州を巡って争いましたが、敗れて蘇州を呉越に奪われました。

902年、楊行密は唐から「呉王」に封じられましたが、自立後も唐の臣下としての立場を貫き、死ぬまで唐の元号を用い続けました。

「黒雲都」と権力闘争

楊行密の力の源泉は、「黒雲都」と呼ばれる親衛軍団でした。この軍は、黒い鎧をまとっていたことからそう呼ばれ、反対勢力の駆逐・弾圧に利用されました。しかし、この軍団への依存が、指揮官である徐温と張顥の軍事的な実権を握らせる結果となりました。

905年に楊行密が死去すると、長男の楊渥が次の呉王に擁立されました。この時期、「呉」は江西を倒して領域を南に広げ、楚からも鄂州や岳州を奪い、最大版図を実現しました。

しかし、楊渥は実質的には徐温の傀儡であり、そこから脱しようとした結果、908年に暗殺されました。徐温は張顥を排除して権力を掌握し、楊渥の弟である楊隆演を次の呉王に擁立し、自らは太師となりました。楊隆演もまた、徐温の傀儡として操られました。

徐温の台頭と呉の終焉

920年に楊隆演が死去すると、徐温は弟の楊溥を次の呉王に擁立しました。徐温は自らが呉王の地位を禅譲されることを考えていましたが、927年に死去しました。

その後、徐温の養子である徐知誥（後の李昪）が権力を引き継ぎ、937年に楊溥を皇帝に即位させた後、禅譲を受けて自ら皇帝となり「斉」を建国しました。これにより呉は滅亡し、斉は後に国名を「唐」（南唐）と改めました。

呉の統治者たち

呉の歴代統治者は以下の通りです。

楊行密（太祖武帝）：建国者であり、初代の呉王。
楊渥（烈祖景帝）：楊行密の長男。徐温によって暗殺される。
* 楊隆演（高祖宣帝）：楊渥の弟。徐温の傀儡となる。



呉は、江南の経済力を背景に短期間で勢力を拡大しましたが、内部の権力闘争や簒奪によって、その歴史に幕を閉じました。しかし、その後の南唐王朝へと続く歴史の流れの中で、重要な役割を果たしました。

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