呉権

呉権（ゴ・クエン、ベトナム語：Ngô Quyền）は、ベトナムの歴史において重要な人物であり、呉朝の初代王として知られています。彼は、939年に建国された呉朝を率い、それまで千年にも及んだ北方王朝の支配に終止符を打ちました。その功績から「前呉王（Tiền Ngô Vương）」とも称されます。

生涯

呉権は、現在のハノイ市ソンタイに位置する唐林の州牧であった呉旻の子として生まれました。伝説によると、彼は生まれた時に異様な光に包まれ、背中には大きな三つのあざがあったとされています。この特異な誕生は、彼の将来が偉大なものになることを暗示しているとされ、そのために「権」と名付けられました。

成長した呉権は、楊廷芸が南漢に抗する戦いで勇敢に戦い、その功績が認められ、楊廷芸の娘を娶るという形で、深い信頼を得ました。南漢軍を撃退後、呉権は楊廷芸から刺史の位を授かり、愛州（現在のタインホア省）を治めることとなります。しかし、楊廷芸が矯公羨に暗殺されると、呉権は937年12月に愛州で兵を挙げ、矯公羨を討ち破ります。

この動きに対し、南漢の皇帝劉龑は万王劉弘操を静海軍節度使に任命し、軍を派遣します。劉洪操率いる南漢軍は水軍を率いて安南に侵攻しますが、呉権は既に矯公羨を殺害した後でした。呉権は白藤江で南漢軍を迎え撃ち、見事な勝利を収めます。

939年、呉権は正式に王位に就き、古螺の地に都を定めました。この出来事は、千年にも及ぶ北方王朝の支配に終止符を打ち、ベトナムの新たな時代の幕開けを告げるものでした。

呉権は、北方王朝の節度使を廃止し、安南に独自の朝廷を設立しました。この朝廷では、王が政治、外交、軍事の全てを決定する体制を構築しました。また、文武の官僚を任命し、朝廷内の儀礼や官吏の服装の色を階級に応じて規定するなど、国家としての基盤を整備しました。

功績のあった将軍を各州の刺史に任命し、国家統治を円滑に進めました。例えば、丁公著は驩州、矯公罕は峰州（現在のフート省）の刺史となりました。呉権は944年、古螺でその生涯を終えました。

人物像

呉権は長身でがっしりとした体格をしており、眼光が鋭く、その歩様はまるで虎のようであったと伝えられています。また、非常に力が強く、一人で鼎を持ち上げることができたという逸話も残っています。これらの特徴から、彼は卓越した武将であり、強力な指導者であったと考えられます。

呉権は、ベトナムの歴史において、独立を達成した英雄として、深く尊敬されています。

参考文献

小倉貞男『物語 ヴェトナムの歴史』〈中公新書〉1997年。
ファン・ゴク・リエン監修『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』明石書店〈世界の教科書シリーズ21〉、2008年。

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