呉朝

呉朝：ベトナム独立の胎動

呉朝（ごちょう、939年 - 968年）は、10世紀に現在のベトナム北部を支配した王朝です。中国の唐王朝が滅亡し、五代十国時代を迎えた混乱期に、ベトナム北部で独立の動きが活発化する中で成立しました。呉朝は、中国からの支配からの脱却を目指し、独自の文化を築こうとしましたが、内部抗争と外部からの圧力に翻弄され、短命に終わりました。

成立までの道のり

9世紀末、唐王朝の支配力が衰退する中、ベトナム北部では地方豪族が台頭します。906年、海陽の豪族であった曲承裕（クック・トゥア・ズー）が静海軍節度使を称し、事実上の独立を果たしました。曲氏一族は、大羅（現在のハノイ）を拠点に、行政区画と租税制度を整備し、交州を統治しました。しかし、曲承裕の孫である曲承美（クック・トゥア・ミー）は、交州に隣接する嶺南を支配する南漢の意向を無視した外交政策を採ったため、南漢の侵攻を招き、930年に捕虜となりました。

曲承美の部将であった楊廷芸（ズオン・ディン・ゲ）は、愛州（現在のタインホア）を拠点に南漢に対抗し、931年に大羅を奪還しました。楊廷芸は南漢から節度使の称号を認められましたが、937年に部下の矯公羨（キェウ・コン・ティエン）に殺害されました。楊廷芸の女婿であった呉権（ゴ・クエン）は、岳父の仇を討つために挙兵し、安南は呉権と矯公羨の二派に分かれて対立しました。

938年、矯公羨は南漢に援軍を要請し、10,000人を超える南漢軍が派遣されました。呉権は、白藤江（バクダン川）で南漢の艦隊を撃破し（白藤江の戦い）、南漢の侵攻を阻止しました。939年、呉権は古螺（コロア、現在のハノイ市ドンアイン県）を都として王を称し、呉朝を建国しました。

呉兄弟の統治と内紛

呉権の死後、呉朝は内部抗争に突入します。944年、呉権の義兄弟である楊三哥（ズオン・タム・カー）が王位を奪い、各地で土豪が独立の動きを見せました。950年、呉権の次男である呉昌文（ゴ・スオン・ヴァン）は、楊三哥を打倒し、呉氏の手に王位を取り戻しました。呉昌文は、兄の呉昌岌（ゴ・スオン・ガップ）を呼び戻し共同統治を行いますが、呉昌岌の死後は呉昌文が単独で統治を行いました。しかし、呉昌岌・呉昌文兄弟の支配力は弱く、呉朝の国力は衰退しました。

十二使君時代

965年、呉昌文が戦死すると、安南は12人の有力な土豪が互いに争う十二使君時代に突入します。呉昌岌の子である呉昌熾（ゴ・スオン・シー）が「呉使君」を称しましたが、他の使君は呉昌熾の命令に従わず、呉氏の主権は有名無実化しました。最終的に、十二使君は、後の丁朝の建国者となる丁部領（ディン・ボ・リン）によって平定されました。

呉朝の政策

呉権は、中国支配の象徴であった大羅に代えて古螺を都としましたが、中華的な秩序を完全に否定することはできませんでした。呉権は、節度使に代えて王を称しましたが、南漢との交渉では節度使の肩書を用いたこともありました。呉朝は、新たに朝廷を設置し、文官と武官を置きました。また、建国の功臣に地方統治を行わせ、王朝が代わると官吏の服の色を変えるという中華王朝の慣例に倣い、新たな服の色を定めました。

歴代君主

呉権（前呉王、在位：939年 - 944年）
楊三哥（平王、在位：944年 - 950年）
呉昌岌（天策王、在位：951年 - 954年）
呉昌文（後呉王、在位：954年 - 965年）
* 呉昌熾（呉使君、在位：966年 - 968年）

まとめ

呉朝は、ベトナムが中国の支配から独立を果たす上で、重要な役割を果たした王朝です。しかし、内部抗争と外部からの圧力により短命に終わりました。呉朝の経験は、その後のベトナムの国家形成に大きな影響を与えました。

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