呉派

明代を彩った文人画の巨峰：呉派の隆盛と変遷

呉派は、中国明代中期（15世紀後半～16世紀）に蘇州を中心に栄えた画派です。別名呉門派とも呼ばれ、沈周と文徴明という二大巨匠を祖とし、文人画の歴史において重要な役割を果たしました。

呉派の源流と画風

呉派の画風は、北宋の巨匠董源や巨然といった南宗画に深く根ざしています。沈周と文徴明は、元代の優れた画家たち（元末四大家など）を師とし、その技法をさらに発展させました。彼らの作品は、水墨画特有の洒脱さと、詩情豊かな表現が特徴です。

呉派の画論は、何良俊、董其昌、陳継儒といった評論家によって体系化され、清代に至るまで文人画の主流として高く評価されました。

呉派の代表的な画家たち

沈周と文徴明の系譜を受け継いだ画家たちは数多く、文彭、文嘉、文伯仁、陳淳、王穀祥、陸治、銭穀といった錚々たる顔ぶれが活躍し、呉派の黄金時代を築きました。

その後も、陸師道、陸士行、張堯思、徐弘沢、銭貢、宋玨、謝時臣、文震亨、米万鍾、卞文瑜、李流芳など、多くの優れた画家が呉派の伝統を継承し、その隆盛を長く保ちました。

沈周・文徴明ら以前にも、彼らに影響を与えた画家たちがおり、これらをプレ呉派と呼ぶこともあります。趙原、王紱、夏㫤、徐賁、杜瓊、沈恒吉などがその代表です。

院派との関連

蘇州では、沈周・文徴明と同時期に周臣、唐寅、仇英といった画家たちも活躍していました。彼らは、画風が南宋画院に淵源を持つことから、日本において院派と呼ばれています。院派は、浙派と呉派の中間的な位置付けにあるとされていますが、画風は互いに近似しており、蘇州画壇全体として捉えられることもあります。

松江派への移行と衰退

明代末期になると、呉派の中心は蘇州から松江華亭県（現在の上海市西部）に移りました。これは、蘇州の衰退、画壇のマンネリ化、そして董其昌による画論の登場といった要因が重なった結果です。

特に董其昌の画論は大きな影響を与え、浙派を衰退させ、後世の画家たちに大きな影響を与えました。現在でも、彼の画論を超えるものは出ていません。松江派（華亭派）の祖とされる顧正誼や、董其昌自身、陳継儒、莫是龍などが活躍しました。

呉派の分派と終焉

その後、呉派はさらに細分化され、顧正誼の華亭派、四王呉惲の南宗正統派、趙左を祖とする蘇松派、沈士充の雲間派など、様々な支派が生まれました。しかし、これらの支派は伝統に固執し、創造性に欠ける傾向がありました。結果的に、新しいタイプの画家たちが台頭し、呉派は歴史の舞台から姿を消していったのです。

呉派は、明代中期から後世の文人画に多大な影響を与えた画派です。その画風や画論は、今日でも高く評価されており、中国絵画史における重要な位置を占めています。

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