周皮細胞

周皮細胞は、Rouget細胞とも称される微小血管周囲に存在する特殊な細胞です。その起源は中胚葉にあり、特に体内の毛細血管の壁に沿って、あるいは取り囲むように配置されています。細胞体からは細長い突起が伸び、毛細血管内皮細胞と直接接触することで連携しています。この細胞全体は、血管基底膜と呼ばれる構造によってしっかりと包み込まれています。

Rouget細胞という名称は、19世紀末にフランスの生理学者シャルル・ルーゲットが、生体顕微鏡下でカエルの毛細血管を観察中に、収縮する能力を持つと見られる細胞を報告したことに由来します。当初はその機能が十分に理解されていませんでしたが、その後の研究により、血管の機能維持において極めて重要な役割を担っていることが明らかになってきました。

特に、脳神経系における周皮細胞はその重要性が際立っており、この文脈ではしばしば「血管周皮細胞」あるいは単に「ペリサイト」と呼ばれます。脳は酸素や栄養素の供給を血管に依存しており、その機能を適切に保つためには血管の健康が不可欠です。脳内の周皮細胞は、神経細胞、脳血管を構成する内皮細胞、そして星状膠細胞（アストロサイト）といった他の主要な細胞と共に、神経血管単位（Neurovascular unit, NVU）という機能的な複合体を形成しています。NVUは、脳活動の変化に応じて血流を調節する神経血管カップリングや、脳内環境の恒常性維持において中心的な役割を果たしています。

周皮細胞がNVUの中で担う具体的な機能は多岐にわたります。まず、血管の成熟と安定化です。周皮細胞は血管の発生過程において内皮細胞と協力し、新しい血管の形成（血管新生）を支援し、一度形成された血管構造を物理的、機能的に安定させるのに貢献します。これにより、血管からの不要な物質の漏出を防ぎ、血管の耐久性を高めています。

次に重要な機能が、血液脳関門（Blood-Brain Barrier, BBB）の維持です。BBBは脳内の微小血管の内皮細胞とそのタイトジャンクションによって主に形成されますが、周皮細胞はBBBの透過性を厳密に制御し、血液中の有害物質が脳内に侵入するのを防ぐ上で不可欠な役割を果たしています。周皮細胞がBBBの機能不全に関与すると、様々な神経疾患の発症や進行に影響を及ぼすことが示唆されています。

さらに、脳が虚血状態に陥った際、例えば脳卒中などでは、周皮細胞は神経保護と組織修復に関与すると考えられています。虚血によって脳組織がダメージを受けると、周皮細胞は炎症応答の調節、グリア細胞の活性化、さらには神経細胞の生存を支援する栄養因子の放出など、多様なメカニズムを通じて神経細胞を保護しようとします。また、虚血後の血管リモデリングや組織の再構築といった修復プロセスにも関与することが研究で明らかになってきています。

このように、周皮細胞は単なる血管の支持細胞ではなく、血管の構造維持から血液脳関門の制御、そして脳組織の保護・修復に至るまで、脳機能の維持に欠かせない多角的な役割を担っています。その複雑な機能や他の細胞との相互作用の全容はまだ完全に解明されていませんが、脳血管障害や神経変性疾患といった脳疾患の病態において重要な役割を果たしていることが示されており、今後の診断や治療法の開発において注目されています。周皮細胞に関する研究は、脳の健康と疾患の理解を深める上で、ますますその重要性を増しています。

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