血液脳関門

血液脳関門（BBB）についての概要

血液脳関門（Blood-Brain Barrier、略称BBB）は、中枢神経系である脳や脊髄と血液との間で物質のやり取りを制限する重要な仕組みです。この関門は、通常は物質の移動を厳格に制御し、脳が必要とする物質だけを選択的に透過させる役割を果たしています。

歴史的背景

血液脳関門の発見は17世紀にさかのぼります。イギリスの生理学者ハンフリー・リドリーが最初に、その存在についての考察を試みました。その後、19世紀にドイツの科学者パウル・エールリッヒにより、ウサギの実験を通じて血液脳関門の概念が提唱されました。しかし、彼は当初その存在を否定的に捉えており、結局、1960年代に電子顕微鏡を用いた研究を通じて血液脳関門の重要な機能が明らかになりました。

構造

血液脳関門は脳内の微小血管に存在し、次の3つの主要成分から構成されています。
1. 内皮細胞
- 血液脳関門の最内層で、主に物質移動を制御しています。これらの細胞はタイトジャンクションという構造によって強固に結合しており、物質の不適切な移行を阻止します。また、特殊な輸送体が発現しており、特定の物質を選択的に運ぶことができます。

2. 周皮細胞（ペリサイト）
- 内皮細胞の外側に位置し、これらも血液脳関門の機能に寄与しています。内皮細胞と共に基底膜で覆われており、血管の安定性を保っています。

3. 基底膜
- 内皮細胞および周皮細胞を支持する膜で、細胞外マトリックスの役割を果たします。この基底膜は二層構造になっており、通常は細胞の移動を制限します。

さらに、脳室周囲器官には血液脳関門が存在しないため、これらの器官は血液成分に直接アクセスし、ホルモンなどを全身に放出する能力を持っています。

機能

血液脳関門の主な機能は、以下の通りです。

• - 物質の選択的透過: 血液中の有害物質から脳を保護しつつ、必要な栄養素（グルコースやアミノ酸など）を供給します。
• - 物質の排出: 不要な物質や代謝産物は血液中に排出され、脳内環境を維持します。

このプロセスは血液脳関門におけるトランスポーターによるもので、特にSLCトランスポーターが重要な役割を果たしています。

透過性と疾患

血液脳関門は中枢神経系にとって不可欠な防護壁ですが、様々な病的状態によってその機能は障害されることがあります。たとえば、脳腫瘍や髄膜炎、神経変性疾患（アルツハイマー病など）がその一例です。これらの疾患では、血液脳関門の透過性が変化し、正常な物質の移動が妨げられることがあります。

疾患における血液脳関門の役割

• - 脳腫瘍: 悪性脳腫瘍では、血液脳関門の機能が低下し、高い透過性を示す毛細血管が形成されることが知られています。
• - 認知症: 特にアルツハイマー病では、老化に伴い血液脳関門が劣化し、脳内の異常タンパク質が蓄積することが神経機能に悪影響を及ぼします。

まとめ

血液脳関門は、中枢神経系を防護するために非常に重要な役割を果たしており、その機能の変化は多くの神経疾患に関連しています。今後の研究により、血液脳関門の機能を調整する新たな治療法の開発に期待が寄せられています。

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