毛細血管

毛細血管：生命維持を支える微細な血管ネットワーク

毛細血管は、動脈と静脈を繋ぐ直径わずか5～20µmの極めて細い血管です。赤血球がやっとすり抜けられるほどの細さで、その壁の厚さはわずか0.5µm。酸素や二酸化炭素などのガスが効率よく拡散できるよう、驚くほど薄い構造をしています。個々の毛細血管の長さは通常50µmに満たないにもかかわらず、全身の血管の約90％以上を占め、その総延長は10万km以上にも及ぶと推定されています。この広大なネットワークが、体全体の細胞へ酸素や栄養を届け、老廃物を回収するという生命維持に不可欠な役割を担っています。

毛細血管の分布と働き

毛細血管は、小動脈から血液を受け取り、小静脈へと血液を送り出します。小動脈と小静脈の壁には平滑筋が存在しますが、毛細血管自身は平滑筋を欠いており、これが毛細血管の重要な特徴の一つです。小動脈の末端には毛細血管前括約筋があり、この筋肉の収縮と弛緩によって毛細血管網への血流量が調節されています。

毛細血管は単純なループ状（係蹄）を形成する場合もありますが、多くの場合、複雑な網目状の構造を成しています。内分泌腺では特に毛細血管の分布密度が高く、腺細胞から分泌されたホルモンを全身に運搬する役割を担っています。肝臓などの広義の内分泌腺でも同様で、腺細胞の間を走る毛細血管は太く拡張した洞様毛細血管（類洞）と呼ばれる構造をとることがあります。洞様毛細血管では血液の流れが遅くなるため、物質交換が効率的に行われます。この構造は、心筋や骨髄などでも観察されます。

毛細血管の構造

毛細血管の壁は、非常にシンプルな構造をしています。内皮細胞の一層とその外側を覆う基底膜から構成され、この薄い壁を通して血液と組織の間で物質交換が行われます。代謝の盛んな組織、例えば横紋筋や脳の灰白質では、毛細血管の分布密度が特に高いことが知られています。場合によっては、内皮細胞の外側に周皮細胞と呼ばれる細胞が存在することもあります。

内皮細胞

毛細血管の内壁を覆う内皮細胞は、薄い板状で、核の部分だけが厚く盛り上がっています。細胞は血管の方向に沿って伸びており、その形状は場所によって様々です。細胞同士の境界線は、古くから硝酸銀染色法によって可視化されてきました。近年では、走査型電子顕微鏡を用いた観察によって、内皮細胞の表面に多数の微絨毛が存在することが明らかになっています。この微絨毛の機能については、まだ解明されていません。透過型電子顕微鏡を用いた観察からは、内皮細胞内にゴルジ装置、ミトコンドリア、小胞体、リボゾームなどが存在することが確認されています。また、細胞骨格を構成する中間径フィラメントや微小管も存在し、細胞の構造を維持する役割を担っています。内皮細胞間には接着装置が存在しますが、その発達程度は血管の種類や部位によって異なり、血管の透過性に影響を与えています。脳血管では強い密着結合が形成され、物質透過性が低い血液脳関門を形成する一方で、骨格筋の血管では密着結合の発達が弱く、透過性が高いという違いがあります。

周皮細胞

周皮細胞は、内皮細胞の外側に存在する細胞で、アクチンやミオシンに富み、収縮能力を持つと考えられています。同時に、線維芽細胞の性質も持ち合わせ、コラーゲンを産生する機能も有しています。走査型電子顕微鏡観察によって、周皮細胞が長い樹枝状の突起を伸ばして血管壁に付着している様子が明らかになっています。周皮細胞の機能としては、毛細血管の血流調節や新生血管の形成に関与していると考えられています。

基底膜

内皮細胞の外側は、基底膜と呼ばれる構造で覆われています。基底膜の外側は疎性結合組織で、コラーゲン線維、線維芽細胞、マクロファージなどの細胞が散在しています。

毛細血管の機能

物質透過

毛細血管の壁は、血液と組織の間の物質交換を行う場です。この物質透過能力は、物質の種類によって異なり、一般的に高分子物質は透過しにくいとされています。しかしながら、様々な高分子物質が毛細血管壁を通過することが知られており、その機構としては、内皮細胞による小胞輸送や、細胞間隙を通じた透過などが考えられています。毛細血管後細静脈では、物質透過性が特に高く、炎症時にはヒスタミンの作用によって透過性がさらに上昇し、浮腫を引き起こす場合があります。

白血球浸潤

白血球は、炎症反応などにおいて、血液中から組織へと移動します。この過程において、白血球は毛細血管の内皮細胞に一時的な孔を形成し、血管外へ移動します。この過程には、様々な接着分子が関与しています。

毛細血管の分類

毛細血管は、その構造に基づいて、連続性毛細血管、有窓性毛細血管、非連続性毛細血管の3種類に分類されます。

連続性毛細血管

連続性毛細血管は、骨格筋や中枢神経系など多くの組織で見られる最も一般的なタイプです。内皮細胞は連続的に並んでおり、細胞間には密着結合が存在しますが、その発達程度は部位によって異なります。物質透過性は比較的低く、主に小分子物質の透過が中心となります。

有窓性毛細血管

有窓性毛細血管は、腎臓や腸管など、物質交換が盛んな組織に見られます。内皮細胞に直径50～80nmほどの孔（窓）が開いており、物質透過性は非常に高いです。窓には薄い隔膜が存在することが多いですが、腎糸球体では隔膜が存在しません。

非連続性毛細血管

非連続性毛細血管は、肝臓や脾臓などに見られる特殊なタイプで、内皮細胞間に大きな間隙があり、基底膜も不連続です。物質透過性は非常に高く、高分子物質も容易に透過します。類洞毛細血管とも呼ばれ、血液の流れが遅いことが特徴です。

特殊な毛細血管

腎臓の糸球体や門脈系などでは、一般的な毛細血管とは異なる血液の流れ方を示します。

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