和井内貞行

和井内貞行：十和田湖に命を吹き込んだ開拓者

和井内貞行（わいない さだゆき）は、安政5年（1858年）に陸奥国鹿角郡毛馬内村（現在の秋田県鹿角市）に生まれました。彼は、十和田湖の養魚事業と観光開発に尽力し、今日の十和田湖の発展に大きく貢献した人物です。

南部藩士から十和田湖の開拓者へ

和井内家は、南部藩の重臣である桜庭氏の家老職を代々務める家柄でした。貞行は幼少の頃から学問に励み、毛馬内学校で助教員を務めた後、工部省小坂鉱山寮に赴任しました。この鉱山勤務が、彼の人生を大きく変えることになります。

当時、十和田湖は魚が全く生息しない湖でした。貞行は、この湖に魚を住まわせたいという強い思いを抱き、養魚事業に着手します。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。試行錯誤を繰り返す日々の中、彼は諦めることなく研究を続けました。

十和田湖への挑戦と成功

1897年、貞行は十和田湖畔に旅館「観湖楼」を創業し、養魚事業を本格的に進めるための人工孵化場を建設しました。そして1903年、ついにヒメマスの稚魚を放流することに成功します。2年後の1905年には、放流したヒメマスが成魚となって湖に戻り、彼の長年の努力が実を結びました。

この成功は、十和田湖の観光にも大きな影響を与えました。それまで静かな湖だった十和田湖は、ヒメマスの生息地として注目を集め、多くの観光客が訪れるようになりました。貞行は、養魚事業の開拓者であると同時に、観光開発の先駆者でもあったのです。

晩年とその後

貞行の功績は高く評価され、1907年には緑綬褒章を授与されました。その後も、十和田湖を国立公園として指定するよう、内務省に陳情するなど、十和田湖の発展に尽力しました。

1922年、貞行は風邪をこじらせて亡くなりましたが、彼の遺志は今も受け継がれています。彼は死後、正七位に叙せられ、勝漁神社（後に和井内神社と改名）に祀られています。秋田県知事の佐竹敬久は、彼の曾孫にあたります。

1950年には、和井内貞行をモデルにした映画『われ幻の魚を見たり』が公開され、彼の偉業が広く知られることとなりました。

十和田湖は現在、ヒメマスの釣りの名所として知られ、多くの人々がその美しい自然と恵みを楽しんでいます。和井内貞行の情熱と努力がなければ、今日の十和田湖は存在しなかったと言えるでしょう。

参考資料

佐々木千之『十和田湖の開発者和井内貞行』三省堂
和井内貞時『父と十和田湖』皇国図書
斉藤長八『十和田湖の魚-ヒメマスを育てた和井内貞行』
佐藤英達『藤田組の発展その虚実』三恵社
* 秋田県総務部秘書広報課 編「十和田開発の父　和井内貞行」『秋田の先覚 : 近代秋田をつちかった人びと』

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