和俗童子訓

『和俗童子訓』は、江戸時代中期に活躍した儒学者、貝原益軒によって著された教育論であり、彼の代表的な著作の一つです。益軒は『養生訓』や『大和本草』など、多岐にわたる分野で優れた著作を残していますが、この『和俗童子訓』は、特に日本における初期の体系的な教育書として重要な位置を占めています。

益軒が81歳という高齢で執筆した1710年に完成したこの書は、児童の成長段階に合わせた教育方法を詳細に述べている点が特徴的です。当時、子供の教育は体系化されておらず、個々の家庭や寺子屋での教育に頼るところが大きかったのですが、この書は、年齢に応じた具体的な教え方を提示することで、当時の教育現場に大きな影響を与えました。特に、随年教法と呼ばれる、児童の発達段階に合わせて段階的に教育を進めるという考え方は、後の寺子屋における教育や、明治以降の小学校教育において重要な役割を果たすことになります。

『和俗童子訓』の内容は、儒教的な思想を強く反映しています。特に、三字経からの影響が指摘されており、親孝行や礼儀作法といった徳目の重要性が強調されています。益軒は、子供の頃からこれらの徳目を身につけさせることが、立派な人間を育てる上で不可欠であると考えていました。書中では、読み書きの指導だけでなく、道徳教育にも重点が置かれており、子供たちの全人格的な成長を促すことを目指しています。

『和俗童子訓』は全五巻から構成されており、各巻の内容は以下の通りです。

一巻 総論上: 教育の基本的な考え方や方針が述べられています。教育の目的や、子供の教育における親の役割など、教育全般に関する重要な原則が示されています。
二巻 総論下: 子供の性格や才能を見抜き、それぞれの個性に合った教育を行うことの重要性が説かれています。子供を画一的に捉えるのではなく、個々の特性を理解した上で教育を行うべきであるという、現代の教育に通じる考え方が述べられています。
三巻 随年教法、読書法: 子供の年齢に応じた具体的な教育方法が詳細に解説されています。読み書きを教える順序や、学習の進め方など、実践的な指導方法が示されています。
四巻 手習法: 書道における基本的な技術や心構えについて述べられています。文字を丁寧に書くことの重要性や、書を通じて精神を鍛える方法などが解説されています。
五巻 教女子法: 当時の社会状況を踏まえ、女子に対する教育の重要性と具体的な方法が述べられています。女子にも読み書きや裁縫などの技術を身につけさせるべきであるという、当時のとしては先進的な考え方が示されています。

『和俗童子訓』は、単なる教育書としてだけでなく、江戸時代の教育観や社会観を理解するための貴重な資料としても重要な意味を持っています。その内容は、現代の教育においても学ぶべき点が多く、教育に関わる人々にとって、今なお価値のある著作と言えるでしょう。

外部リンク

貝原益軒アーカイブ - 学校法人中村学園

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