和声と創意の試み

アントニオ・ヴィヴァルディによるヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』（イタリア語原題: Il cimento dell'armonia e dell'inventione）作品8は、彼の創作活動における重要な位置を占める作品群です。この曲集は1725年までに、主にアムステルダムのミシェル＝シャルル・ル・セーヌ社から出版され、同時期にパリでも刊行されました。全12曲のヴァイオリン協奏曲が収められており、中でも特に有名なのが、世界中で愛される標題音楽の傑作《四季》です。この曲集は、ヴィヴァルディが庇護を受けていたボヘミアの貴族、ウエンツェル・フォン・モルツィン伯爵に献呈されています。

出版背景と献呈

『和声と創意の試み』は、1724年から1725年にかけて、アムステルダムのル・セーヌ社より2巻に分けて出版されました。献呈を受けたウエンツェル・フォン・モルツィン伯爵は、1676年から1737年まで生きたボヘミアの貴族で、神聖ローマ皇帝カール6世に仕える廷臣であり、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンを最初に雇用したカール・フォン・モルツィン伯爵とも親戚関係にありました。

ヴィヴァルディは1724年からモルツィン伯爵の「イタリアにおける音楽のマエストロ（maestro di musico in Italia）」という肩書のもとで庇護を受け、俸給を得ていました。この肩書は、ヴィヴァルディが定期的に楽曲を伯爵へ提供するとともに、伯爵がヴェネツィアを訪れた際にその楽団の世話を担う役割を示唆していると考えられています。この曲集がアムステルダムで刊行された直後、フランスのパリにおいても、マダム・ボワヴァンやル・クレール兄弟といった出版元から出版されています。

出版社の事情

ル・セーヌ社は、ヴィヴァルディの初期の重要な作品集『調和の霊感』作品3から『12の協奏曲』作品7までを手がけたエティエンヌ・ロジェの娘婿にあたります。ロジェが1722年に亡くなった後、ル・セーヌがその事業を引き継ぎました。作品7から作品8の出版まで間隔が開いた背景には、ロジェおよび出版責任者のジャンヌが、ヴィヴァルディの承諾を得ずに自社で用意した曲を作品7に加えて水増し出版したことが影響しているという推測があります。

実は、ヴィヴァルディ自身は、この作品8の出版に先立つ1724年11月、ピエモンテの貴族カルロ・ジャチント・ロエロ伯爵に宛てた手紙の中で、24曲の協奏曲の予約販売を持ちかける試みを行っていました。これは、ゲオルク・フィリップ・テレマンが行ったように、出版社を介さずに直接購入者に販売しようとする試みだったと見られます。しかし、この試みは成功しなかったようで、結局はロジェの後を継いだル・セーヌ社から、今回の『和声と創意の試み』として出版されることになりました。

作品集の構成

『和声と創意の試み』作品8は、以下の12曲のヴァイオリン協奏曲から構成されています。

第1番 ホ長調 RV 269 『春』 - 《四季》より
第2番 ト短調 RV 315 『夏』 - 《四季》より
第3番 ヘ長調 RV 293 『秋』 - 《四季》より
第4番 ヘ短調 RV 297 『冬』 - 《四季》より
第5番 変ホ長調 RV 253 『海の嵐』
第6番 ハ長調 RV 180 『喜び』
第7番 ニ短調 RV 242 『ピゼンデル氏のために』
第8番 ト短調 RV 332
第9番 ニ短調 RV 236 (ヴァイオリン) / RV 454 (オーボエ)
第10番 変ロ長調 RV 362 『狩』
第11番 ニ長調 RV 210
第12番 ハ長調 RV 178 (ヴァイオリン) / RV 449 (オーボエ)

この曲集の冒頭4曲を飾る《四季》は、標題音楽の代表的な存在であり、各季節の情景が生き生きと描かれています。また、『海の嵐』や『狩』といった標題付きの作品も含まれており、ヴィヴァルディの描写的な音楽語法が発揮されています。《ピゼンデル氏のために》は、ドイツのヴァイオリニスト、ヨハン・ゲオルク・ピゼンデルに献呈された、あるいは彼のために書かれたと考えられている作品です。作品集にはヴァイオリン協奏曲が主ですが、第9番と第12番はオーボエ協奏曲版も存在します。

まとめ

『和声と創意の試み』は、ヴィヴァルディがパトロンからの庇護のもと、当時の主要な音楽出版ルートを通じて世に送り出した重要な協奏曲集です。特に《四季》の収録は、この作品集をヴィヴァルディの全作品の中でも最も広く知られた存在として位置づけています。バロック協奏曲の進化を示す傑作であり、その多様な表現と革新性は今日においても多くの聴衆を魅了し続けています。

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