和宮様御留

和宮様御留について

『和宮様御留』は、有吉佐和子による長編小説で、1977年から1978年にかけて文芸雑誌『群像』に連載され、その後講談社から出版されました。この作品は「和宮替え玉説」に基づく内容であり、連載当初から大きな反響を呼び起こしました。特にショッキングなテーマや緻密な描写が読者を魅了し、結果として単行本はベストセラーとなりました。この作品は第20回毎日芸術賞を受賞しており、1980年と1981年には竹下景子主演で舞台化され、さらに何度もテレビドラマ化されています。

物語の概要

この小説の中心には、和宮降嫁を巡る「和宮替え玉説」があります。物語は、和宮を京都から江戸へ降嫁させるために奔走する京都所司代酒井忠義と、それに反発する観行院（和宮の母）・和宮母子の対立を軸に進んでいきます。孝明天皇や公家、女官たちが絡む複雑な状況の中、主人公の少女フキは何も知らされないまま替え玉にされていく様子が描かれています。

フキは、京都の橋本家の下女であり、観行院に見いだされて和宮の替え玉として江戸に下ることになります。和宮の居室に潜伏する日々が続く中、フキは少進や庭田嗣子などの女官と関わりながら、次第に精神的なバランスを崩していきます。

作品中では、作者が丁寧に描写する御所言葉が多用され、その描写は独特の雰囲気を醸し出しています。この小説は、女性の視点から歴史を再評価することをテーマとしており、作者はこうした視点からの重要性を訴えています。さらに、和宮降嫁を太平洋戦争と重ね合わせ、作品を戦争で命を失った若者たちへの鎮魂歌とも見なした点も注目です。

登場人物

この作品には多くの重要な登場人物がいます。中でもフキは、和宮に代わって江戸に下る架空の人物で、彼女の苦悩や葛藤がストーリーの中心を形成しています。また観行院は、和宮を思いやる母として描かれ、フキに替え玉としての役割を担わせる結果となります。そのほかにも、女官たちや茶道家たちなどがストーリーに彩りを加えています。

あらすじ

物語は、京の町方に生まれた捨て子のフキが、橋本邸の下女として働き始めるところから始まります。和宮が桂の御所に降嫁する日、フキはその居室に潜入し、秘密裏に和宮の役割を果たすことになります。その後、フキは観行院に付き添われながら江戸に向かう過程で、制度や習慣に苦しみ、心の均衡を失っていきます。途中で彼女は、仲の良かった少進との別れを経て、さらなる試練に直面することになります。

フキの姿を通して、女性や社会が抱える問題が巧みに描写されており、物語のクライマックスで彼女が叫ぶ「あて、宮さんやおへん」という言葉は、彼女の苦悩と切実な思いを表しています。最終的にフキは新しい替え玉に置き換えられるという悲劇的な展開を迎え、この物語は女性の苦悩と歴史の不条理が交錯する作品となっています。

和宮替え玉説の意義

この作品は歴史小説としての枠を超え、替え玉説に基づく論争を呼び起こしました。作者自身も和宮替え玉説の真偽を後書きで示唆し、その議論は歴史学者たちの間でも多様な意見を引き出しました。今なおこの作品が語られ続けるのは、そのテーマの深さや時代背景に対する鋭い視点に起因していると言えるでしょう。

『和宮様御留』は、ただの歴史小説ではなく、女性の声を再評価し、歴史の中に埋もれがちな真実や出来事に光を当てる意義深い作品です。

もう一度検索