哀しみのコルドバ

宝塚歌劇『哀しみのコルドバ』：悲恋の物語と進化の歴史

19世紀末のスペイン、マドリードとコルドバを舞台に繰り広げられる、宝塚歌劇のミュージカル作品『哀しみのコルドバ』。柴田侑宏による脚本は、闘牛士エリオ・サルバドールの激しい恋と運命を描いた、ロマンティックで切ない物語です。

初演と配役の妙

1985年の星組初演は、トップ娘役が湖条れいかと南風まいのダブルキャスト、さらに山城はるか退団直後の時期という特殊な状況でした。そのため、日向薫や紫苑ゆうといった実力派の娘役・男役が重要な役割を担い、主人公とヒロインだけでなく、周囲の人物にもスポットライトが当たる、多彩な人間ドラマが展開されました。この複雑な人間関係が、作品に深みと奥行きを与えています。

再演とロメロ役の変遷

1995年の花組再演では、2番手男役の真矢みきがロメロ役に抜擢されたことで、ロメロのキャラクターがより重要視され、ストーリーにも変化が加えられました。それ以降、ロメロ役は多くの場合、2番手男役が演じるようになりました。この変更は、作品の解釈や演出に大きな影響を与え、新たな魅力を引き出しています。

ストーリー：運命に翻弄される闘牛士

花形闘牛士エリオは、師匠の娘アンフェリータとの婚約も決まり、順風満帆な日々を送っていました。しかし、ある夜会で、8年ぶりに初恋の女性エバと再会します。エバは貴族の妻を経て今は実業家ロメロの愛人となり、華やかな社交界で活躍していました。

再会した2人は、コルドバで共に過ごした幼い頃の思い出を語り合い、抑えきれない想いを再び燃え上がらせます。互いに婚約者や愛人がいる身でありながら、2人の関係は複雑な展開を見せます。

エリオの親友ビセントは、司法長官の令夫人との不倫関係が露呈し、エリオとの決闘に発展。ビセントは勝利するものの、闘牛士の地位を失い、愛人と駆け落ちします。

エリオはアンフェリータへの愛と、エバへの強い想いの狭間で揺れ動きます。コルドバでの闘牛試合のためマドリードを去ったエリオを、エバは追いかけます。2人は密会し、激しい感情をぶつけ合う中で、エバはロメロとの関係を清算することを決意します。エリオもまた、師匠に引退試合を開くことを許されます。

しかし、エリオとエバには衝撃的な真実が隠されていました。2人は異母兄妹だったのです。ロメロとの決闘の場には、エリオとエバの母親が現れ、この事実を明かします。決闘は中止となりますが、エリオはエバに真実を告げず、未来を約束します。しかし、エリオの胸中は絶望に満ちていました。

引退試合当日、エリオは闘牛士仲間やビセント、そしてアンフェリータに囲まれ、最後の闘いに臨みます。しかし、その瞬間、エリオは牛の角に貫かれ、壮絶な最期を遂げます。

音楽と登場人物

作品を彩る音楽も魅力の一つです。柴田侑宏作詞、寺田瀧雄と高橋城作曲による楽曲「哀しみのコルドバ」「エル・アモール」「エル・コルドベス」など、スペインの情熱的な音楽が物語を盛り上げます。

エリオ、エバ、アンフェリータ、ビセント、ロメロ、フェリーペなど、個性豊かな登場人物たちが織りなす人間模様も、作品の見どころです。それぞれのキャラクターの葛藤や苦悩、そして愛の深さが、繊細に描かれています。

多彩な再演と進化

『哀しみのコルドバ』は、1985年の初演以来、1995年、2009年、2015年、2021年と幾度も再演されています。各公演で配役や演出、ストーリーに微妙な変化が加えられ、常に新鮮な魅力を放ち続けています。特に、1995年花組公演での安寿ミラ・森奈みはる、2009年以降のANJUによる振付参加は、作品に新たな息吹を吹き込んでいます。

参考文献

夢を描いて華やかに―宝塚歌劇80年史―
すみれ花歳月を重ねて―宝塚歌劇90年史―

この作品は、スペインの情熱と悲しみ、そして人間の心の機微を繊細に描いた、忘れられないミュージカルです。様々な解釈と演出が施された再演の歴史も、この作品の魅力を高めています。

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