哱拝の乱

哱拝の乱（ボハイのらん）の詳細解説

1592年（万暦20年）に明代中国の寧夏で発生した哱拝（ボハイ）による反乱、通称「寧夏兵変」または「寧夏の役」について解説します。この反乱は、万暦帝の時代に起きた万暦の三征の一つであり、困窮した兵士たちの自主的な蜂起という側面も持ち合わせていました。

反乱の背景

寧夏鎮は黄河の畔に位置し、かつては「塞北の江南」と呼ばれるほど肥沃な土地でした。ここは北辺九鎮の一つとして、陝西都指揮司の管轄下にありました。黄河とその水路は、モンゴルなどの北方民族からの防衛線としての役割も担っていました。

1571年（隆慶5年）、明朝はモンゴルを統一したアルタンを順義王に封じ、和平条約を結びました。これにより軍事衝突は減少し、軍事支出も抑制されました。しかし、明朝の腐敗は深刻化し、互市による負担は増大しました。アルタンの死後、息子のチュルゲが順義王となりましたが、父ほどの指導力はなく、モンゴルの分裂が進み、寧夏は度々侵略を受けることとなりました。

明朝の衛所制度は荒廃し、兵士の逃亡が相次ぎました。防衛は家丁と呼ばれる雇われ兵士に依存するようになり、敵対勢力であった異民族が家丁となるという矛盾も生じました。さらに、寧夏からの兵力抽出や移動により、兵士も民衆も疲弊していました。

1589年（万暦17年）末、党馨が巡撫として寧夏に派遣されましたが、彼は厳しい統治で悪名を轟かせました。馬が死んだ時の賠償金を容赦なく取り立てたり、給料を長期に渡って支給しないなど、兵士の生活を圧迫しました。兵士の訴えにも耳を傾けず、威嚇するばかりでした。

反乱の勃発

官軍家丁の劉東暘や許朝は、党馨の圧政に反抗して兵乱を起こしました。哱拝は投降したモンゴル人でしたが、明軍内で頭角を現し、副総兵にまで出世していました。1589年（万暦17年）には60歳で引退し、息子の哱承恩に都指揮使を継がせていましたが、自身も2,000人の家丁を抱えていたため、党馨に危険視され、無理な任務を与えられるなど恨みを買っていました。官軍家丁が蜂起すると、哱拝一族もこれに同調して立ち上がりました。

1592年（万暦20年）2月18日、劉東暘に率いられた兵士たちが兵備副使の石継と巡撫の党馨を殺害し、役所の印を奪い、城門を閉鎖して囚人を解放し、略奪や焼き討ちを始めました。哱拝と哱承恩も群衆を扇動して反乱に参加しました。反乱軍は、巡撫が兵糧を着服したことが民心を憤激させ、変乱を引き起こしたと主張しました。

反乱の拡大と鎮圧

反乱は周辺地域に拡大し、多くの人々が参加しました。明朝は魏学曽を三辺総督尚書に任命し、鎮圧に乗り出しました。しかし、反乱軍はモンゴルの支援を受け、抵抗を続けました。モンゴル軍は寧夏に侵入し、国境を牧地とするなど、事態は深刻化しました。

明朝は豊臣秀吉による朝鮮侵攻の情報を受け、寧夏の反乱を早期に鎮圧し、朝鮮半島への注力を図りました。魏学曽を罷免し、葉夢熊を後任に任命しました。葉夢熊は水攻めを行うなど、強硬な手段で反乱を鎮圧しようとしました。

籠城が長引くにつれて、城内では食糧が不足し、明軍に内応する者も現れました。明軍は許朝と劉東暘を殺害し、その首を城上に晒しました。16日、明軍は哱承恩を生け捕り、哱拝は自殺しました。明軍は彼の遺体を火中から取り出して斬首に処し、ここに哱拝の乱は終結しました。

11月11日、哱承恩は京師にて磔刑に処されました。

参考文献

* 岡野昌子「万暦二十年寧夏兵変」『明末清初の社会と文化』小野和子編、京都大学人文科学研究所、1996年。

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