唄者

唄者（うたしゃ）とは

唄者とは、奄美群島に伝わる伝統的な音楽であるシマ唄を歌う人々の中でも、特に優れた歌唱力を持つ名手を指す言葉です。シマ唄は、奄美群島の各集落（シマ）に伝わる歌謡であり、近年では沖縄の伝統歌謡やポップスを指す「島唄」とは異なるものです。そのため、区別して表記されることもあります。

唄者の条件

伝統的な唄者には、美しい声や高度な歌唱力はもちろんのこと、多くの歌詞を知っていることや、即興で唄を掛け合う「唄遊び」に長けていることも求められます。唄者は、単に歌を歌うだけでなく、シマ唄の文化を体現する存在と言えるでしょう。

近年では、沖縄民謡の歌い手を指して「唄者」という言葉が使われることもありますが、本来は奄美のシマ唄の歌い手に対して使われる言葉です。また、沖縄本島中南部の方言では「ウタサー」と呼ばれます。

唄者の生業

奄美群島における唄者の多くは、プロの歌手ではなく、別の職業を持つ人々です。例えば、著名な唄者である武下和平、坪山豊、築地俊造なども、それぞれ船大工や商店経営など、別の生業を持っていました。築地俊造は、日本テレビの『日本民謡大賞』で全国優勝した際、「プロにはならない」と発言し、周囲を驚かせたというエピソードがあります。

また、中孝介のように、メジャーなポップ歌手として活躍する一方で、シマ唄は商売にしないというポリシーを持つ唄者もいます。

唄者のキャリア

唄者の多くは20代で頭角を現し、30代で中堅、40代でベテラン、50代で大御所と呼ばれるようになります。ただし、坪山豊のように、40代で頭角を現し、瞬く間に大御所となった例外的な唄者も存在します。

シマ唄と方言

シマ唄は奄美方言で歌われるため、奄美方言を使いこなせることも唄者の条件の一つです。しかし、1953年の奄美本土復帰以降、方言の使用を禁止する教育が行われたり、共通語による放送の影響で、奄美方言を理解できない世代が増えました。そのため、かつてのように誰もがシマ唄を歌えるという状況ではなくなっています。

また、群島内の同じ島でも、集落（シマ）によって方言や伝統的な歌唱方法に違いがあります。例えば、奄美大島では、北部の奄美市笠利を中心とする「カサン唄」の唄者と、南部の瀬戸内町を中心とする「ヒギャ唄」の唄者に分類することができます。（宇検村などの唄をさらに別の系統とする場合もあります。）

唄者出身の歌手

近年では、元ちとせ、中孝介、城南海など、シマ唄の歌唱法（特にファルセットを瞬時に使う「グイン」という節回し）を生かしたポップ歌手が登場しています。また、東京などに拠点を移し、シマ唄を歌うことを職業とする唄者もいます（朝崎郁恵、牧岡奈美など）。

唄者は、奄美の伝統文化を継承する重要な存在であり、その歌声は多くの人々に感動を与え続けています。

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