唇歯鼻音

唇歯鼻音（しんしびおん）は、子音の一種で、発音時に下唇と上歯を用いて閉鎖を作り、同時に口蓋帆を下げて鼻腔へも呼気を送ることで生じる音です。国際音声記号では[ɱ]と表記されます。

発音の特徴

気流の起こし手: 肺から送り出される呼気を使用します。
発声: 声帯の振動を伴う有声音です。
調音位置: 下唇と上歯を用いて調音する唇歯音です。
調音方法: 口腔内では完全な閉鎖を作り、その閉鎖を開放することで音を生成します。また、口蓋帆を下げて鼻腔へも呼気を送る鼻音としての特徴も持ちます。

唇歯鼻音は、単独で現れることは少なく、他の唇歯音である[f]や[v]の前に現れることが多いです。これは、発音の際に、唇と歯の調音位置が近いため、隣り合う音の影響を受けて自然に唇歯鼻音が発生しやすいと考えられます。

言語例

唇歯鼻音を音素として持つ言語は非常に稀で、コンゴ共和国のククヤ語のみが知られています。しかし、多くの言語で、他の鼻音の異音として現れます。

英語: 例えば、"symphony"（交響曲）という単語では、[sɪɱfəni]のように発音され、/m/の異音として現れます。このように、英語では通常、/m/の音が[f]の前に来る場合に[ɱ]に変化することがあります。
スペイン語: "influencia"（影響）という単語では、[iɱfluenθia]のように発音され、/n/や/m/の音が[f]の前で[ɱ]に変化することがあります。スペイン語でも同様に、鼻音が後続の唇歯摩擦音の影響を受けて唇歯鼻音化する傾向があります。

中古漢語における唇歯鼻音

中古漢語にも唇歯鼻音が存在したと考えられています。例えば、日本語のバ行やマ行にあたる漢字（例: 万、無）の発音の一部に、唇歯鼻音が存在した可能性があります。しかし、現代中国語では、この音は/w/に変化しています。これは、言語の歴史的な変化によって、発音の仕方が変わった例です。

このように、唇歯鼻音は、特定の言語では音素として独立して存在し、多くの言語では他の鼻音の異音として現れる、興味深い音です。その発音メカニズムや言語における出現の仕方を理解することは、音声学における重要な知見となります。

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