商館

商館とは

商館は、主に開港場や開市場に設けられた外国人居留地内に設置された、宿泊施設と倉庫を兼ね備えた商業施設です。ここでは、特定の国の商人が共同で生活することが義務付けられ、自由に外出したり、取引を行うことは制限されていました。交易は、現地の政府から特別に許可を得た商人とのみ行うことが許されていました。

商館の設立目的と特徴

居留地自体が、現地住民と外国人との間で生じる摩擦を避けるための隔離を目的としていました。商館の周囲は壁で囲まれ、出入りを監視する役人が配置されていました。また、商館を設置した国側も管理のための役人を常駐させ、滞在する商人は彼らの指示に従う必要がありました。

商館の歴史

商館のルーツは古代に遡り、ヘレニズム時代には、インドにギリシア・ローマによる商館施設があったとされています。11世紀には、イスラーム世界においてフンドゥクと呼ばれる商館が地中海沿岸に作られました。フンドゥクは旅館と倉庫が一体となった構造を持ち、同様の機能を持つ施設としてハーンやカイサリーヤもありました。12世紀のヨーロッパのフォンダコは、フンドゥクを語源としています。フォンダコは、イスラーム勢力圏との接点であったシリアやシチリアで誕生し、その後ヨーロッパから中東地域に広がっていきました。アレクサンドリアにはアラビア人の商館、ヴェネツィアにはドイツ人の商館が設置されました。また、ドイツ・ハンザ同盟のコントールや南ドイツのカウフハウスも、同様の機能を持つ施設でした。ハンザ同盟のロンドンのスティールヤードやノヴゴロドの聖ペテル館は特に有名でした。

大航海時代以降、商館はアジア各地に設立され、ポルトガルのゴアやマカオの商館、オランダの長崎商館、イギリスの広州や上海の商館などが代表的です。ヨーロッパでは、19世紀の自由貿易の拡大によって商館の重要性は薄れていきましたが、アジアやアフリカではその後も、インドや中国、開国後の日本の開港地などで、先進国による海外進出の拠点として機能しました。

商館の衰退

ヨーロッパにおいては、自由貿易の理念が広まるにつれて、商館のような閉鎖的な貿易形態は次第に姿を消していきました。しかし、アジアやアフリカでは、植民地支配が進む中で、商館は重要な役割を果たし続けました。商館は、単なる貿易拠点としてだけでなく、文化や技術の交流の場としても機能しました。

参考文献

宮下孝吉「商館制度」（『社会科学大辞典 第10巻』鹿島研究所出版会、1975年）
M・N・ピアスン『ポルトガルとインド 中世グジャラートの商人と支配者』生田滋訳、岩波書店〈岩波現代選書〉、1984年。
安野眞幸『港市論―平戸・長崎・横瀬浦』日本エディタースクール出版部、1992年。

関連項目

オランダ商館
イギリス商館
英一番館
キャラバンサライ
唐人屋敷
蕃坊
交易港
* 商館時計

もう一度検索