交易港

交易港（こうえきこう）とは

交易港は、共同体の外部との交渉を行う制度であり、物理的な場所でもあります。国際市場が成立する以前の普遍的な交易制度として、様々な地域で見られました。

交易港の特徴

交易港は、以下の特徴を持ちます。

立地: 海岸、砂漠、河口、平原と山岳など、生態学的に異なる地域の境界に多く存在します。内陸にも見られます。
成立理由: 経済的行政管理の必要性、政治的中立性の維持、輸送の便などが挙げられます。
取引: 市場メカニズムによる価格競争ではなく、行政管理的に処理されます。
規模: 沈黙交易よりも大規模で、多数の共同体が参加できます。
政治的中立性: 敵国人の安全を保証するなど、中立性が重視されます。
共同体の分離: 共同体は交易港を分離して扱い、外部からの影響を遮断します。
貨幣: 共同体の内部とは異なる貨幣（対外貨幣）が用いられます。
交易者: 専門の対外交易者が参加します（例: メソポタミアのタムカルム、古代ギリシアのエンポロス、アステカのポチテカ）。

交易港の歴史と事例

古代の交易港

メソポタミアのカルム、シリアのパルミラ、ウガリト、フェニキアのシドンとティルス、古代ギリシアのエンポリウム、北ヨーロッパのヴィクなどが、遺跡から確認できる古代の交易港です。

マックス・ウェーバーは、古代ギリシアにおいて外来商人を保護したプロクセニー（Proxenie）について論じ、中世ヨーロッパの主人権（Wirtsrecht）との関連を指摘しました。

アジアの交易港

中国では、朝貢貿易によって周辺国を服属させ、明・清の時代には各地の交易港に市舶司を置いて管理交易を行いました。広州市、泉州市などがその例です。

インド洋のシャーバンダル制度も、市舶司と同様に交易港制度の一種とされます。イスラーム世界では、外来交易者と地元交易者が客人と主人の関係を結び、客人は現地社会と接触せずに主人に取引を任せる形態も見られました。

内陸の交易港としては、キャラバン都市であるカンダハール、イスファハン、サハラ交易のトンブクトゥなどが挙げられます。

日本の交易港

中世日本の長崎では、渡来商人と日本商人は市が立つ日以外の接触が禁じられ、ポルトガル商人は船宿の保護下におかれて内町に住み、日本商人は外町に住みました。同様の分割は平戸、横瀬浦にも見られました。

その他の交易港

アステカとプトゥン人が交易を行ったシカランコ、ダホメ王国が奴隷貿易に用いたウィダー、フェルナンド・ポー島、モガディシュなども交易港として知られています。

国際市場との関係

交易港の中には、ルーアンやドレスタットのように国際的な市場の近くに地域の市場が開かれている土地もありました。ただし、国際市場と地域市場は空間的に区別されていました。

交易港の衰退

交易港を政治的に支配しようとした場合、衰退することがあります。エルナン・コルテスがアカランを支配しようとした事例がその例です。

参考文献

安野眞幸『港市論―平戸・長崎・横瀬浦』日本エディタースクール出版部、1992年。
イブン・バットゥータ 著、家島彦一 訳『大旅行記（8）』平凡社〈平凡社東洋文庫〉、2001年。
川田順造『無文字社会の歴史―西アフリカ・モシ族の事例を中心に』岩波書店〈岩波同時代ライブラリー〉、1990年。
栗本慎一郎『経済人類学』講談社〈講談社学術文庫（Kindle版）〉、2013年。
カール・ポランニー 著、栗本慎一郎、端信行 訳『経済と文明 - ダホメの経済人類学的分析』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2004年。
カール・ポランニー 著、玉野井芳郎、栗本慎一郎、中野忠 訳『人間の経済』岩波書店〈岩波現代選書〉、1998年。
山田雅彦 著「市場と流通の社会史」、山田雅彦 編『伝統ヨーロッパとその周辺の市場の歴史』清文堂、2010年。

関連項目

沈黙交易
市舶司
朝貢貿易

外部リンク

* 安野眞幸「戦国期日本の貿易担当者 : 禅僧からイエズス会士へ」

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