啾々吟

小説『啾々吟』の概要

『啾々吟』（しゅうしゅうぎん）は、著名な作家・松本清張の短編歴史小説です。この作品は1953年に『オール讀物』に掲載され、その後同年の短編集『戦国権謀』に収録されました。

あらすじ

物語は、肥前鍋島藩の主君の嫡男・淳一郎とほぼ同じ日に生まれた松枝慶一郎と石内嘉門の友情を中心に展開します。慶一郎は家老の子、嘉門は軽輩の子と、立場は異なりますが、二人は淳一郎の学友として親密な関係を築きます。嘉門はその抜群の才知で慶一郎を魅了しますが、藩の儒家草場佩川は彼を「可愛げのない男」と評し、次第に主人や佩川からも疎まれます。嘉門は自身の立場に不満を感じつつも、慶一郎は彼を励まそうとします。

そんな中、嘉門には許婚の千恵がいましたが、彼はひそかに叔父の家を訪れることがあり、慶一郎はそれを知って驚きます。やがて、嘉門は軍隊に加わることになりますが、その間に慶一郎は千恵と結婚します。慶一郎の結婚は嘉門に衝撃を与え、彼は不満を抱きながらも長崎へ旅立つことになります。

その後、維新の波が訪れると、慶一郎は英国留学の命を受け、帰国する頃には自由民権運動が盛り上がっていました。新聞には自由党の論客である谷山輝文が慶一郎を攻撃する記事が掲載されていましたが、彼はそれを特に気にしませんでした。失踪していた嘉門が自由党内でも名の知れた論客となっていたことに嬉しさを覚えますが、彼の過激な言動には不安を感じるようになります。

ある日、慶一郎は警視総監からの呼び出しを受け、そこで谷山と再会します。谷山は歳を取り、生活の厳しさが伺える様子で、慶一郎は彼の不幸を自分のせいだと責めます。二人の再会の後、谷山は政府の密偵としての正体が暴かれ、自由党員に暗殺されてしまいます。

書き手の思い

著者の松本清張は、この作品について非常に自信を持っているようでした。彼は「新人賞」にノミネートされたという嬉しい知らせを受けましたが、結局は次席だったことに落胆しつつも、手応えを感じていたと語っています。この作品が持つ力は、ドイツ文学者である小松伸六からも評され、「現代即応の歴史小説」として高く評価されました。

国文学者の石川巧は作品の中で慶一郎の視点に依存しすぎたことを指摘し、嘉門の悔恨の念が彼本来の立場とは異なる視点から語られていると論じています。慶一郎は勝者の視点から描かれているため、敗北者である嘉門の苦悩を真に理解することが難しい構成になっていると言えるでしょう。

総評

『啾々吟』は、友情の複雑さや運命の残酷さを描いた短編小説であり、松本清張の文才が光っています。彼が描く人物たちの感情や関係性には、深い洞察が感じられ、読み手に強く訴えかけます。歴史的な背景を持ちながらも、普遍的なテーマが詰まったこの作品は、今も多くの人々に愛されていることでしょう。

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