善光寺平用水

善光寺平用水の詳細

善光寺平用水は、長野県長野市に広がる善光寺平を潤すための用水路群です。この用水は、善光寺平土地改良区によって管理されており、地域の農業を支える重要な役割を担っています。

地理

善光寺平用水は、主に二つの水系から取水しています。

裾花川水系: 裾花川左岸の里島発電所放水路に設けられた里島頭首工から取水し、裾花幹線導水路を通じて各用水路に水を供給します。この導水路は、妻科で鐘鋳堰と安茂里用水に分水し、さらに長野県庁舎付近の大口分水工で八幡・山王堰へと水を送ります。
犀川水系: 犀川左岸の小田切発電所放水路末端に設置された犀川頭首工から取水し、犀川幹線導水路を通じて各用水路に水を供給します。久保寺用水、小市用水、四ヶ郷用水に分水され、八幡・山王堰にも補給されます。また、裾花川の右岸には、善光寺平用水の北限となる鐘鋳堰や、長野市街地から長沼地域まで広範囲にわたって水を供給する八幡・山王堰があります。

施設

善光寺平用水には、以下のような主要な施設があります。

頭首工
里島頭首工: 裾花川水系からの取水を行うための施設で、取水門が1門あります。鉄筋コンクリート製で、昭和37年に完成しました。主にこの頭首工から裾花川水系の水が取水されます。
裾花頭首工: 堰堤式の鉄筋コンクリート製で、取水門が2門あります。昭和10年に完成しましたが、里島頭首工の完成により現在は予備役となっています。
犀川頭首工: 犀川水系からの取水を行うための施設で、取水門が1門あります。鉄筋コンクリート製で、昭和30年に完成しました。川中島平土地改良区と共有で利用されています。
幹線水路
裾花幹線導水路: 里島頭首工から大口分水工までの幹線水路で、全長1.314kmです。
幹線隧道工: 犀川頭首工から左岸幹線導水路までの暗渠で、全長0.875kmです。
左岸幹線導水路: 幹線隧道工から犀川幹線導水路までの暗渠で、全長0.144kmです。
犀川幹線導水路: 左岸幹線導水路から北八幡堰までの幹線水路で、裾花川を逆サイフォンで横断します。全長4.606kmです。
四ヶ郷導水路: 犀川右岸で犀川幹線導水路から分水し、逆サイフォンで裾花川を横断して四ヶ郷用水に接続します。全長2.564kmです。
主要分水路
鐘鋳堰
* 八幡・山王堰

歴史

善光寺平用水の歴史は非常に古く、平安時代初期の条里制施行に伴い、裾花川の旧流や末流を利用してその原型が開削されたと考えられています。中世には、荘園領主や国人層による荘園開発が進み、既存の用水の整備改良や新たな用水路の開削が行われました。近世初めには、四ヶ郷用水や久保寺用水が開削され、現在の用水体系がほぼ完成しました。

各用水路を利用する村々は、堰守を頂点とする堰組合（用水組合）を中心に、用水全体の管理運営を行ってきました。裾花川を水源とする用水では、簗手と呼ばれる堰で水をせき止めて取水する手法が用いられ、恒久的な取水口は設置されていませんでした。

明治時代に入っても、江戸時代以来の運営体制に大きな変化はありませんでしたが、大正時代に入り、裾花川の水量だけでは不足する状況となりました。1924年の大旱魃をきっかけに、鐘鋳堰組合と八幡・山王堰組合の間で水争いが発生し、裾花川水利の改善が求められました。

1928年には、善光寺平の農業用水を根本的に改良する目的で善光寺平農業水利改良期成同盟会が設置され、その後、善光寺平耕地整理組合（現在の善光寺平土地改良区）に改称し、国の補助を受けて大規模な改良事業が行われました。この事業により、犀川幹線導水路と裾花幹線導水路が設置され、用水の安定供給が図られました。

戦後には、川中島平の用水を含めた農業用水の改良が検討され、小田切発電所の建設と並行して、県営善光寺平川中島平農業水利改良事業が行われました。この事業では、犀川幹線導水路の取水口が小田切発電所放水路に設置され、裾花頭首工が非常用となり、新たに里島頭首工が設置されました。

2001年から2011年にかけて、老朽化した幹線導水路や逆勾配の解消を目的とした県営かんがい排水事業が行われましたが、この際にゲンジボタルの生息が確認されました。産卵地となった裾花幹線導水路の一部では、ゲンジボタルに配慮した工法が採用されています。

2006年には、その特異な立地やホタルの生息、地域活動などが評価され、農林水産省によって「疏水百選」に選定されました。

善光寺平用水は、長年にわたり地域の農業を支え、豊かな自然環境を育んできた、歴史と文化が息づく貴重な用水路群です。

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