喜びの琴事件

喜びの琴事件

喜びの琴事件は、1963年に劇団文学座の中で発生した劇的な騒動です。この事件の発端は、三島由紀夫が執筆した戯曲『喜びの琴』が、劇団内の思想的対立により公演を中止されたことにあります。それに連動して、文学座の幹部や中堅の俳優たちが集団で脱退する事態にまで発展しました。

事件の経緯

この事は1963年1月14日にさかのぼります。文学座から期待されていた俳優たちが一斉に脱退し、新たに劇団雲を立ち上げたことは、文学座側にとって衝撃的でした。この脱退劇は当時の座長である杉村春子のリーダーシップに反発する形で進展し、結果的に文学座の結束が試されることとなりました。

その中で、三島由紀夫は文学座再建の必要性を感じ、1963年1月16日に声明を発表し、再出発のプランを提示しました。この中で彼は「現代劇の確立」や「日本の古典を探る」といった目標を掲げました。これに伴い、三島は新年公演用の戯曲として『喜びの琴』を執筆しました。

『喜びの琴』は、言論統制が進む時代背景を描いたもので、主人公は反共主義者の公安巡査・片桐です。この作品は、松川事件に触発されたような内容を含みつつも、最終的には思想の相対化を描いています。しかし、作品は公演されることなく、十一月に上演保留の決定が下されました。

上演中止の理由

上演保留の決定を受け、三島は上演中止に応じ、文学座に対し思想的理由によるものとする合意書を取り交わしました。この状況に対する三島の怒りと失望は彼の言葉に現れており、文学座内で発生した深刻な対立の象徴とも言える出来事でした。

その後、三島は劇団の脱退を決意し、外部で公開状を発表。これにより、彼の退出は決定的なものとなり、他の数名の俳優も文学座から脱退しました。若い俳優たちが次々と文学座を離れ、「グループNLT」という新たな団体が設立されるに至ります。

社会的な影響

この事件は、文学座に限らず、演劇界全体に大きな波紋を広げました。岩田豊雄という創立者からも批判の声が挙がり、組織内の老化現象や一連の騒動の結果、文学座が新体制を模索する姿勢を窺わせることになりました。

事件後、正に三島にとって、文学座との関係を断つことになったこの騒動の影響は強く、彼の作品が今後どのように評価されるかにも影響を及ぼすできごとでした。

その後の展開

三島の書いた『喜びの琴』は翌年の1964年5月に日生劇場で、浅利慶太の演出により公演されますが、この際、過去の経緯を背景にしたさまざまな反応があり、文学座との関係は悪化しました。それから数年後には、杉村春子と浅利慶太の間で和解が実現し、文学座との関係が再構築されることとなりますが、この事件は日本の演劇史において重要な分岐点として記憶されています。

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