喜多七太夫長能

喜多七太夫—能楽界の巨星

喜多七太夫（きた しちだゆう）は、天正14年（1586年）から承応2年1月7日（1653年2月4日）にかけて活動した能楽界の重要な人物であり、喜多流の創始者として名高い存在です。以前は北七太夫と称しており、二代目十太夫から「喜多」を名乗ることとなりました。彼は初代とされることが一般的で、また古七大夫とも呼ばれています。別名として六平太があり、法名は願慶です。

彼の出自については、堺の目医者である内堀家に生まれたと言われていますが、詳しいことは不明です。喜多七太夫は7歳の頃から能を見事に舞う能力を見せたため、「七ツ太夫」と呼ばれるようになりました。慶長元年（1596年）には、10歳という若さで金剛座の一員として薪猿楽に出演し、その実力から早くから人気を得ていたとされています。

金剛太夫弥一に養子として迎えられた七太夫は、金剛三郎という名を名乗り、金剛座の嗣子に。不幸にして、慶長10年（1605年）の弥一の死後、彼はその後継者としての大夫に就任しました。しかし、その直後に金春大夫安照の娘と結婚したものの、岳父である安照は三郎の才能を警戒し、ほとんど指導を行わなかったと言われています。

彼は大坂の陣で豊臣方に参加したが、その戦後には浪人となりました。金剛大夫の後継者は弥一の実子・右京勝吉が継承しました。浪人期間中は、京都で遊女に能舞を教えるなど、能界から一時離れることになります。

元和5年（1619年）には、徳川秀忠の上洛に際して金剛七大夫として復帰し、その後は秀忠の寵愛を受けながら、芸界の首位に立つこととなりました。この時期、他の座の大夫たちは若年であったことが幸いし、喜多七太夫の人気はますます高まりました。特に、彼が大御所となった後は、秀忠による熱心な支持を受け、黒田長政や伊達政宗、藤堂高虎などの大名たちからも高く評価されました。

寛永4年（1627年）頃からは北七大夫を称し、金剛座から独立した喜多座を形成しました。しかし、その目覚ましい成功には嫉妬する者も多く、寛永11年（1634年）には「関寺小町」の上演にあたり、閉門を命じられました。この事件は同時期の仲間たちの策謀によるもので、結果として伊達政宗の尽力で赦免されました。

その後も能楽界の第一人者として活躍を続けましたが、慶安2年（1649年）には、勧進能を行うための上洛途中でトラブルに巻き込まれ、一時的に隠遁する事態となります。四男で後を継ぐ正能の成長も影響し、演能する機会は徐々に減少していきました。慶安4年（1651年）には内容豊かな徳川家綱の将軍宣下祝賀能に出演した後、引退を決意することになります。そして、承応2年（1653年）1月、彼は世田谷区の浄真寺にて生涯を閉じました。

喜多七太夫は、その一生で喜多流を確立し、記録に残るだけでも1,000曲を超える能を舞った舞台芸術の巨人でした。彼の業績は、秀吉時代から江戸初期にかけての能楽の代表的存在となっており、今なお彼に肩を並べる人物が現れないことから、彼の偉大さが伺えます。

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