喜多流

喜多流について

喜多流（きたりゅう）とは、日本の伝統芸能の一つである能楽における主要な流派で、能のシテ方を代表する存在です。この流派は江戸時代初期に創設され、その祖は喜多七太夫です。

喜多七太夫の生涯

喜多七太夫は、堺の医者の家に生まれ、7歳の時に豊臣秀吉の前で「羽衣」を舞い、その卓越した才能が認められました。このことがきっかけで「七つ太夫」と称されるようになり、後に喜多流の家元となります。彼は秀吉の近侍として仕え、「六平太」という名前でも知られています。この名はポルトガル語に由来するといわれ、秀吉の支援の下、金春禅曲の娘と結婚し、後に金剛流の家元となった弥一の養子として金剛太夫を継承しました。

秀吉の死後、大坂の陣に参加し、豊臣方として戦いましたが、その後の落城後に隠れました。徳川家康の強い希望を受けて、黒田藩主の尽力により江戸に招かれ、能楽の演者として仕官することになりました。この際、彼は「武士は二君に仕えず」という理由で初めは固辞しましたが、最終的には能楽役者として仕えるよう勧められ、北姓を喜多に改め、家紋も新たに設定されました。

流派の発展

喜多流は、七太夫が創設した流派の一つで、彼はさまざまな流派の技法を巧みに取り入れながら独自のスタイルを築きました。この独自性が評価され、元和年間には正式に喜多流として認定されました。喜多流は、他の流派と比べて小規模でありながらも、幕末までに200石の石高を有し、その地位を確立しました。

彼の芸風は武士気質で素朴かつ豪放であり、多くの大名家からも支持を受けるようになりました。特に福岡藩の黒田家や、津軽藩、仙台藩、水戸藩など、数多くの藩に採用されるなど、その影響力は広がりました。

継承と危機

やがて徳川幕府の崩壊に伴い、喜多流は一時廃絶の危機に直面しましたが、浅野家、井伊家、藤堂家、山内家などの協力や、地方の能楽師たちの尽力により再生を果たしました。中でも、十四世喜多六平太という名人の存在が大きかったと言われています。彼の業績を讃えるために設立された喜多能楽堂は、現在も流派の拠点として機能しています。

近代の名人と現在

大正・昭和期には、喜多実や後藤得三、友枝喜久夫・友枝昭世親子、粟谷菊生、塩津哲生といった名人たちが活躍しましたが、2021年には十六世喜多六平太とその実弟が相次いで逝去し、宗家は不在となりました。現在は喜多流職分会にて活動が続けられ、友枝昭世が宗家預かりとしてその運営に関与しています。喜多流はその伝統を受け継ぎながら、現代においても活躍を続けています。

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