嗤う伊右衛門

嗤う伊右衛門（わらういえもん）

京極夏彦による長編小説であり、江戸怪談シリーズの第一弾として発表された。四代目鶴屋南北の『東海道四谷怪談』と実録小説『四谷雑談集』をベースに、京極夏彦が独自の解釈を加えて物語を再構築した作品である。

概要

本作は、従来の四谷怪談のイメージを覆す斬新な設定と解釈が特徴である。お岩は、伊右衛門と出会う前から病によって容姿が醜くなっており、伊右衛門もまた、伊藤家の陰謀に巻き込まれながらもお岩を愛し続けるという、従来のイメージとは異なる人物として描かれている。

ストーリー

物語は、御先手鉄砲組同心の娘である民谷岩が、疱瘡によって容姿を損なってしまう場面から始まる。父・又左衛門は、娘に婿を取らせて家を継がせようと奔走し、按摩の宅悦の紹介で、浪人の境野伊右衛門に目を付ける。祝言を挙げたものの、二人の間には次第に不和が募っていく。

一方、薬種問屋の娘・梅を手篭めにした伊東喜兵衛は、又市の脅迫を受け、梅を妻に娶ることになる。喜兵衛は、民谷夫妻の不和に乗じて、二人を陥れようと企む。

登場人物

民谷 伊右衛門（たみや いえもん）
旧姓は境野。剣術に長け、木工の腕も持つ浪人。お岩の容姿が変わっても愛情を持ち続けるが、その気持ちはなかなか伝わらない。

民谷 岩（たみや いわ）
疱瘡によって容姿が醜くなったものの、凛とした態度を崩さない。伊右衛門の気持ちを信じられず、苦悩する。

直助（なおすけ）
万年橋の町医者の下男。伊右衛門とは数少ない友人。

又市（またいち）
小股潜りの異名を持つ小悪党。強請りや縁談の斡旋を生業とする。

宅悦（たくえつ）
足力按摩。岩に婿を探すよう又市に依頼する。

伊東 喜兵衛（いとう きへい）
御先手御鉄砲組与力。悪事を企み、周囲を不幸にする。

民谷 又左衛門（たみや またざえもん）
岩の父。娘の幸せを願う。

民谷 梅（たみや うめ）
喜兵衛に手籠めにされ、彼の妻となる。

秋山 長右衛門（あきやま ちょうえもん）
喜兵衛の腰巾着。

堰口 官蔵（せきぐち かんぞう）
喜兵衛の腰巾着。

お袖（おそで）
直助の妹。伊右衛門に恋心を抱く。

お槇（おまき)
雑司が谷界隈の辻堂に住まう唐針売り

西田 尾扇（にしだ びせん）
深川万年橋の町医者。

小平（こへい）
担ぎの薬売り。

三宅 彌次平衛（みやけ やじへい）
御先手鉄砲組組頭。

三宅 左内（みやけ さない）
先代の御先手組組頭。

利倉屋 茂介（とくらや もすけ）
両国の薬種問屋「利倉屋」の主人

佐藤 余茂七（さとう よもしち)
御書物奉行配下同心で民谷家の遠縁

テーマ

本作は、人間の業、愛憎、そして運命の残酷さを描いている。京極夏彦ならではの独特な世界観と、緻密な心理描写が読者を魅了する。

受賞歴・映像化

第25回泉鏡花文学賞 受賞
第118回直木賞 候補
2004年に蜷川幸雄監督により映画化
しかくによって漫画化

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