嘆きの壁事件

嘆きの壁事件とは

嘆きの壁事件は1929年8月、イギリス東委任統治下のパレスチナ、エルサレムで発生した武力衝突です。この衝突は、アラブ人とユダヤ人の間に深刻な対立を生む契機となり、同年のヘブロン事件やツファット・ポグロムなど、パレスチナ各地でのユダヤ人に対する一連の襲撃を引き起こしました。

事件の背景

移民の流入

19世紀中頃より、シオニズム運動が起こり、ヨーロッパで差別に悩むユダヤ人がパレスチナへの移民を希望していました。バルフォア宣言の1917年には、イギリスがユダヤ人の国家建設を支持し、多くのユダヤ人がパレスチナに入植しました。その結果、土地の所有権を持つユダヤ人が増加し、ヘブライ大学の設立などが進められました。こうした移民の増加は現地アラブ人の間に危機意識を植え付けました。

嘆きの壁とその重要性

嘆きの壁は、ローマ帝国にエルサレム神殿が破壊された後、その残骸として残った西側の外壁を指します。この壁はユダヤ教徒にとって最も神聖な場所であり、長い間祈りを捧げることが制限されていました。また、イスラム教徒にとっても重要な地域であり、他宗教間での緊張を生む一因となっていました。1928年、嘆きの壁での男女の祈祷者を分ける習慣に対する抗議がアラブ側で起こり、以降、状況は緊迫化していきました。

ベタルの登場

1925年に設立された修正主義シオニズム連合・ベタルは、ユダヤ社会における軍事的な自衛力を強調し、新たな移民を受け入れることを目指しました。その一環として、1929年8月に嘆きの壁でのデモが計画されました。

事件の詳細

嘆きの壁事件が起こるきっかけは、1929年8月15日、ユダヤ教の断食日であるティシュアー・ベ＝アーブにベタルのメンバーが集まったことです。「壁は我々のものだ！」という叫び声のもと、彼らはシオニストの旗を掲げ、シオニズムの賛美歌を歌いました。この様子はアラブ住民の間に恐怖をもたらし、彼らは激しく反発しました。

8月16日、イスラム社会の指導者によるデモが行われ、ユダヤ教の祈りの書が燃やされるなどの抗議行動が展開されました。この騒動は次第にエスカレートし、翌日にはユダヤ人の一人が殺害される事態に進展しました。多くのユダヤ人が襲撃を受け、暴力はエルサレムから他の地域へと広がりました。

事件の結果

最も深刻な被害が出たのはヘブロンで、ここでは約65名のユダヤ人が殺されています。この期間、パレスチナ全域でユダヤ人133名が命を落とし、アラブ人も116名が殺害されるなど、犠牲者は双方にのぼりました。警察や軍の手薄な状況がさらなる混乱を招き、暴動が燃え広がる要因となりました。

まとめ

嘆きの壁事件は、パレスチナにおけるアラブ人とユダヤ人の対立を激化させ、以後の歴史における重要な分岐点となりました。この事件が引き起こした一連の暴動は、両族の信頼関係を根本から揺るがし、長期にわたる対立の始まりを告げました。

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