ティシュアー・ベ＝アーブ

ティシュアー・ベ＝アーブ（神殿崩壊日）とは

ティシュアー・ベ＝アーブ（Tisha B'Av, תשעה באב）は、「アーブの9日」を意味し、ユダヤ教において最も重要な祝祭日のひとつであり、ユダヤ史における最大の悲劇を記憶する日とされています。タルムードに起源を持ち、ユダヤ教徒はヨム・キプルと同様に、この日に断食を行います。ただし、ヨム・キプルには断食しても、ティシュアー・ベ＝アーブには断食しないユダヤ教徒もいます。

起源と5つの悲劇

ミシュナー（マッセヘト・タアニート、4:6）には、ティシュアー・ベ＝アーブの日に起きたとされる以下の5つの悲劇が記されています。

1. 斥候の報告: モーセが「約束の地」カナンを偵察するために派遣した12人の斥候が、カナンの悪い報告をしたため、民が嘆き悲しみました。神はこれに怒り、モーセに率いられた世代は約束の地に入れなくなりました（民数記13章〜14章）。ユダヤ人はこの過ちを代々嘆き続けています。
2. 第一神殿の崩壊: 紀元前586年、ネブカドネザル2世率いる新バビロニア王国によってエルサレム神殿とユダ王国が破壊され、人々はバビロンへと連行されました（バビロン捕囚）。
3. 第二神殿の崩壊: 紀元70年、ローマ帝国によってエルサレム神殿（第二神殿）が再び破壊されました（エルサレム攻囲戦 (70年)）。
4. エルサレムの破壊: ユダヤ人の対ローマ帝国反乱後、133年にローマ軍が神殿跡とその周辺を徹底的に破壊しました。
5. バル・コクバの乱の終焉: 135年、バル・コクバの乱においてベータールが陥落し、アキバ・ベン・ヨセフをはじめとする多くの学者（タンナーイーム）が命を落としました。

これらの出来事は、ユダヤ人にとって計り知れない苦難であり、ティシュアー・ベ＝アーブは、これらの悲劇を追悼し、歴史から教訓を学ぶ日となっています。

ティシュアー・ベ＝アーブの過ごし方

ティシュアー・ベ＝アーブは、ユダヤ教徒にとって最も厳粛な日の一つであり、様々な追悼の習慣があります。

断食: 日没から翌日の日没まで、約25時間の断食を行います。
祈り: 悲しみを表現するための特別な祈りが捧げられます。
哀歌: キーナーと呼ばれる哀歌が朗読されます。
娯楽の制限: 喜びを象徴する行為（音楽を聴く、お祝い事に参加するなど）は避けます。
トーラー学習の制限: 通常、喜びに繋がると考えられているため、トーラー学習は制限されます。ただし、悲しみや喪失に関連する箇所は学習されます。

ティシュアー・ベ＝アーブは、過去の悲劇を記憶するだけでなく、自己反省と悔い改めの機会でもあります。ユダヤ人はこの日を通じて、過去の過ちを認識し、より良い未来を築くための決意を新たにします。

関連事項

キーナー：哀歌
アーブ：ユダヤ暦の月の一つ
トゥー・ベ＝アーブ：アーブの15日
ユダヤ暦
Bereavement in Judaism

参考文献

Telushkin, J. Jewish Literacy. William Morrow & Co, 2001, p. 656
Proceedings of the Committee on Jewish Law and Standards of the Conservative Movement 1927-1970 - Volume III Ed. David Golinkin, The Rabbinical Assembly, Jerusalem, 1997.
Chabad.org Calendar, go to 9th of Av
Av, the month of tragedies

もう一度検索