嘆きの歌

『嘆きの歌』

グスタフ・マーラーが若き日に作曲したカンタータ『嘆きの歌』（ドイツ語：Das klagende Lied）は、彼の創作初期を代表する重要な作品です。自身で民話に基づく台本を作成し、1878年から1880年にかけて原曲が生まれました。その後、複数回にわたる改訂を経て完成し、マーラーにとって最初の作品番号が与えられました。大規模なオーケストラや声楽陣を用いたこの作品には、後の交響曲にも通じるマーラーの革新的な音楽語法が既に表れています。

作曲の背景と経緯

この作品の着想は、マーラーがウィーン音楽院に在学していた時期に遡ります。彼はリュートヴィヒ・ベヒシュタインやグリム兄弟の物語など、民話に着想を得て自ら台本を執筆。1879年秋から作曲を開始し、1880年11月1日に一旦完成させました。当初は「森の伝説」「流離いの楽師」「婚礼の音楽」の3部構成で約70分を要する壮大なものでしたが、ウィーン楽友協会の作曲コンクールでの落選という経験を経て、マーラーは作品に大幅な手直しを施す決意をします。

最初の改訂は1888年から1893年にかけ行われ、編成の縮小や初稿第1部を構成から外す大きな変更が含まれました。これにより作品は2部構成となり、演奏時間も約40分に短縮。さらに1898年から1899年にかけ、この2部構成版に最終的な推敲が加えられました。以前削除されていた舞台裏バンダの一部復活など細部にわたり改訂され、マーラーは総譜を新たに書き直すこととなりました。

構成と編成

初稿は3つの部分から成り立っていましたが、最終稿は初稿第1部が削除された「流離いの楽師」「婚礼の音楽」にあたる2部構成です。編成はオーケストラ、独唱、合唱に加え、舞台裏に配置されるバンダ（別働隊）を含みます。改訂により編成は変化しており、例えば独唱者数は初稿11人から最終稿4人に減るなど規模が縮小されました。オーケストラの低音パートには特徴があり、マーラー作品としては珍しくコントラファゴットが使われない一方、チューバに非常に低い音域が指定される箇所があります。

演奏時間

初期の3部構成版は約70分、最終稿の2部構成版は約40分です。

受容史

『嘆きの歌』の公式な世界初演は、最終稿を用いて1901年2月17日にウィーンでマーラー自身の指揮により行われましたが、演奏が不出来だったためか、当時の評判は高くありませんでした。最終稿の楽譜は初演前の1899年に出版されています。

一方、構成から外された初稿の第1部は、後に独立して1934年にチェコスロバキアで初演され、楽譜が出版されたのはさらに遅れて1973年でした。初稿全体の総譜は長らくマーラーの遺族によって保管されていましたが、1969年にアメリカのエール大学図書館に寄贈されて再発見され、当時のマーラー作品への関心の高まりの中で改めて注目されます。これを機に、最終稿に初稿第1部を加えた3部構成での演奏が広く行われるようになりました。

初稿全体の楽譜出版は1997年で、同年に初稿版の商業録音も登場し、「世界初録音」として話題を呼び、初稿全体での演奏も増加しました。しかし、現在でも最終稿が演奏される機会もあり、バージョン選択は続いています。日本での初稿全3部の初演は1998年5月に東京交響楽団によって行われました。

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