嘉納治郎右衛門 (九代目)

九代目嘉納治郎右衛門は、1898年（明治31年）7月5日に生まれ、1972年（昭和47年）3月10日に没した日本の実業家です。嘉納財閥、本嘉納家の九代目当主であり、菊正宗酒造の元会長を務めました。また、灘育英会の理事としても活動し、従七位勲六等の位階を有していました。

生い立ちと家督相続

岡山県出身で、神戸市東灘区に居を構えた治郎右衛門は、貴族院議員や山陽銀行頭取を歴任した土居通博の次男として生まれました。1919年（大正8年）に、八代目嘉納治郎右衛門の養子となり、本嘉納商店の取締役として実業界に入ります。1923年（大正12年）には関西学院高等商業学部を卒業し、経営者としての基礎を築きました。

1935年（昭和10年）3月、八代目当主の死去に伴い、それまでの名前である文治を改め、九代目嘉納治郎右衛門を襲名。同時に菊正宗酒造の社長に就任しました。その後、25年間にわたり社長の重責を担い、1960年（昭和35年）には会長となりました。その他、灘商業銀行や富士生命保険の役員も務め、多岐にわたる事業に携わりました。

教育事業への貢献

治郎右衛門は、灘育英会、甲南高等女学校、神戸女子薬科大学（現：神戸薬科大学）の理事を務め、教育事業にも力を注ぎました。特に、育英事業には深い関心を持ち、多くの学生の育成に貢献しました。また、日本酒造組合中央会の理事などの公職にも就いていましたが、戦後、公職追放令によりこれらの職を辞任しました。

戦後の活動と社会貢献

1951年（昭和26年）に公職追放が解除されると、翌1952年（昭和27年）には私財を投じて財団法人秋香報恩会を設立し、社会貢献活動を積極的に行いました。1960年（昭和35年）には菊正宗酒造記念館を建設し、その功績が評価され、記念館は重要文化財民俗資料の指定を受けました。

1935年（昭和10年）に紺綬褒章、1962年（昭和37年）には藍綬褒章を受賞しており、その社会的な貢献が高く評価されています。

人物と家族

治郎右衛門は碁を趣味とし、浄土真宗を信仰していました。家族については、養子に毅六（本嘉納家10代目当主）、長女に貴久子、五女（または四女）に周子がいます。養子の毅六は、東京大学農学部農芸化学科を卒業し、10代目濱口儀兵衛（ヤマサ醤油元社長）の六男です。長女の貴久子は、甲南高等女学校を卒業し、養子・毅六の妻となりました。五女の周子は、甲南高等女学校を卒業後、分家の嘉納芳治（菊正宗酒造元取締役）の妻となっています。

参考文献

人事興信所 編『人事興信録 第25版 上』人事興信所、1969年。
『財界家系譜大観 第1版』現代名士家系譜刊行会、1971年。

これらの文献は、嘉納治郎右衛門の生涯や業績を深く理解するための重要な資料となっています。

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