四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)

モーツァルト：四手のためのピアノソナタ

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、ピアノやオルガンといった鍵盤楽器のために数多くの作品を残しました。これらの作品は、一人の奏者が一台の楽器に向かう独奏曲だけでなく、二人の奏者が協力して一台のピアノを演奏する「連弾（四手）」のための曲や、二台のピアノを用いる「ピアノ二重奏曲」など、多様な形態を含んでいます。これらの作品の多くには、「四手のための」（zu vier Händen）あるいは「2台のピアノのための」（für zwei Klaviere）といった言葉が添えられています。本稿では、特にモーツァルトが手掛けた、ピアノ連弾のためのソナタに焦点を当ててご紹介します。

概要

モーツァルトは連弾のためのピアノソナタを合計6曲作曲したとされていますが、そのうちの1曲は残念ながら未完に終わっています。ソナタ形式の作品の他に、連弾のための変奏曲も創作しています。これらの作品は、モーツァルトの多才な創作活動の一端を示すものであり、ピアノ連弾というジャンルにおける重要なレパートリーとなっています。

四手のためのピアノソナタ一覧

モーツァルトが作曲した四手のためのピアノソナタは以下の通りです。

ハ長調 K.19d
モーツァルトがわずか9歳だった1765年5月、ロンドンで作曲されたと考えられています。彼の初期の作品であり、才能の萌芽を感じさせる清々しい音楽です。原題は「Sonate in C für Klavier zu vier Händen KV 19d」。
構成：第1楽章 アレグロ、第2楽章 メヌエット、第3楽章 ロンド（アレグレット）

変ロ長調 K.358 (186c)
18歳となった1774年の春、ザルツブルクで完成されました。より成熟した筆致が見られる作品です。原題は「Sonate in B für Klavier zu vier Händen KV 358 (186c)」。
構成：第1楽章 アレグロ、第2楽章 アダージョ、第3楽章 モルト・プレスト

ニ長調 K.381 (123a)
16歳の時、1772年初めにザルツブルクで書かれたと推定されています。この曲は、イタリア風のシンフォニアを連弾用に編曲したような快活な性格を持っています。かつては1781年にウィーンで作曲されたと考えられていましたが、自筆譜が姉のナンネルによって保管されていたことや、モーツァルト姉弟が1772年にザルツブルクで演奏した可能性が示唆されたことから、古い番号K.381から新しい番号K.123aが付与されました。姉ナンネルとの連弾のために書かれた可能性が高い作品です。原題は「Sonate in D für Klavier zu vier Händen KV 381 (123a)」。
構成：第1楽章 アレグロ（ニ長調、4分の4拍子、ソナタ形式）、第2楽章 アンダンテ（ト長調、4分の3拍子、ソナタ形式）、第3楽章 アレグロ・モルト（ニ長調、4分の2拍子、ソナタ形式）

ヘ長調 K.497
モーツァルトが30歳を迎えた1786年8月1日、ウィーンで完成されました。充実した創作期に書かれた、規模の大きな傑作です。原題は「Sonate in F für Klavier zu vier Händen KV 497」。
構成：第1楽章 アダージョ～アレグロ・ディ・モルト、第2楽章 アンダンテ、第3楽章 アレグロ

ハ長調 K.521
31歳の時の作品で、1787年5月29日にウィーンで完成しました。当初は2台のクラヴィーア（ピアノ）のために構想された可能性も指摘されています。モーツァルトの親友ゴットフリート・フォン・ジャカンとその才能ある妹フランツィスカに献呈された作品です。この曲の完成前日、1787年5月28日早朝に父レオポルトが亡くなっていますが、モーツァルトは父の死を知らぬままこの曲を仕上げたとされています。原題は「Sonate in C für Klavier zu vier Händen KV 521」。
構成：第1楽章 アレグロ（ハ長調、4分の4拍子、ソナタ形式）、第2楽章 アンダンテ（ヘ長調、4分の3拍子、三部形式）、第3楽章 アレグレット（ハ長調、4分の2拍子、ロンド形式）

ト長調 K.357 (497a)
こちらも30歳の頃、1786年の晩夏にウィーンで作曲されたとされる未完のソナタです。K.357 (497a) とK.500aとして知られる2つの楽章から構成されています。ケッヘル目録では当初、断片や他の変奏曲の中間部として扱われていましたが、現在では独立した楽曲として新しい番号K.497aが与えられています。原題は「Sonate in G für Klavier zu vier Händen (unvollendet) KV 357 (497a)」。
構成：第1楽章 アレグロ (K.357(497a))、第2楽章 アンダンテ (K.500a) - いずれも途中で終わっています。

その他の四手のためのピアノ曲

モーツァルトはソナタ形式の他に、変奏曲形式の連弾曲も残しています。

* アンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501
30歳だった1786年11月4日にウィーンで完成されました。翌年には「フォルテピアノまたはハープシコードのための四手変奏曲」として出版されています。原題は「Andante mit fünf Variationen in G für Klavier zu vier Händen KV 501」。主題とそれに続く5つの変奏からなる作品です。

モーツァルトの四手のためのピアノ作品は、親密なアンサンブルの喜びや、連弾ならではの豊かな響きを追求した、魅力的なレパートリーと言えるでしょう。

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