因幡民談記

因幡民談記について

『因幡民談記』、または『稲葉民談記』は、因幡国に関する最古の史書とされており、1688年に完成を見ました。この書は、全8部構成の10巻からなり、原本は焼失しているものの、いくつかの写本が現在でも伝わっています。著者は小泉友賢という鳥取藩に属した人物で、彼は20年間にわたって因幡の地を巡り、その地域の歴史や文化に関する資料を収集し、まとめ上げました。

著者と成立過程

小泉友賢（1622-1691）は、岡山藩の家臣の家に生まれました。彼は藩主の国替えに従い、因幡へ移住。その後、京都で文学や史学を学び、江戸では儒学者のもとで学んだ後、鳥取藩の医学者としても名を馳せました。友賢は1673年頃に『因幡民談記』の原型を完成させ、1688年に最終版として仕上げました。この書は、当時の鳥取藩において唯一の地誌書・歴史書とされ、重要な役割を果たしました。

作品の内容

『因幡民談記』は、次のような8つの部に分かれています。
1. 因幡国郡郷山川図名所
2. 国主之部
3. 筆記之部
4. 郡郷之部
5. 詩文之部
6. 諸歌誹諧之部（古書）
7. 神社之部
8. 仏閣之部

特に「国主之部」は、因幡国の歴史における中心的な部分であり、古代から戦国時代、そしてその後の鳥取藩主池田家の治世に至るまで詳述されています。そのため、この部は『因幡民談記』のコアと見なされています。その他の部は、地誌や古書など、因幡国の文化や地理に関する多様な情報を含んでいます。

評価と注目点

『因幡民談記』は、その細かな記述から歴史書として高く評価されていますが、戦国時代の一部の記述において、因幡国と隣接する但馬国の事情に対する触れ方が不十分であるとの指摘もあります。これは、当時の政治的な配慮が影響していると推定されています。

この書は、資料編として位置づけられる部もあり、散逸した史料の内容を多く伝えています。また、因幡国の歴史を知る上での貴重な資料がいくつか含まれており、その価値が認識されています。近年の研究では、同書に対する史料批判が不十分との指摘があり、論考や資料としての扱いが推奨されています。

写本とその後の影響

『因幡民談記』の写本は多く残されており、鳥取県内の各種機関にて所蔵されています。1914年や1958年代に刊行された版もあり、特に因伯文庫版は校訂が優れているとされています。

この書は、後の地歴書にも大きな影響を与え、『因幡志』や『鳥府志』といった作品に重要な参考資料として取り込まれています。岡嶋正義が著した『鳥府志』では、『因幡民談記』の内容を吟味し、分析したことから、それに基づいた学問的議論が展開されています。

まとめ

『因幡民談記』は、その成り立ちや内容から、江戸時代初期における因幡国の重要な歴史的資料であり、地域文化の理解に寄与する貴重な一冊です。地域の歴史を知るための資料として、今後も多くの研究が続けられることでしょう。

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