固定指示子

固定指示子

固定指示子（こていしじし、英: rigid designator）とは、言語哲学および様相論理において用いられる用語であり、特定の術語が「すべての可能世界において同じ対象」を指す場合を指します。この概念は、指示の一貫性を理解するための重要な要素であり、言語と現実との関わりを深く探求するための基盤となります。さらに、固定指示子は「持続的固定指示子」や「頑固な固定指示子」と分類されることもあります。

固定指示子の分類

固定指示子は、すべての可能世界において同様の対象を指す特性を持つため、通常は異なる可能世界で異なる対象を指すことが多い「非固定指示子」と区別されます。持続的固定指示子は、全ての可能世界でその対象を一貫して指示し、頑固な固定指示子は、対象の存在にかかわらず一貫して同じものを指示する点が特徴です。例えば、固有名は固定指示子の典型的な例で、常に特定の個人や対象を指します。

歴史的背景と発展

この概念は中世のスコラ哲学者たちにさかのぼります。彼らは、指示に関する理論を発展させ、絶対的概念と含意的概念を定義しました。絶対的概念とは、対象がその本質によって指示されるものであり、例えば「金」などは、どの可能世界においても同じ特性を持つため、絶対的な指示を持つとされます。一方、含意的概念は文脈によって異なる対象を指すことがあるため、その適用範囲が変化します。

ソール・クリプキの貢献

この分野における重要な発展は、ソール・クリプキによってなされました。彼は、固有名や自然種が固定的に指示される場合について考察した著作『名指しと必然性』の中で、従来の記述理論に対抗する立場を打ち出しました。彼の主張は、例えば「ビスマルク」という名前は常に特定の人物を指し示すが、記述的な表現は異なる状況によって異なる対象を指す可能性があると述べました。これは、名指しと名詞の使用の本質的な違いを考える上で非常に重要です。

本質主義と因果・歴史的指示理論

クリプキはまた、本質主義に基づいた視点を採用し、ある対象がどの可能世界においても同じ本質を持つとき、その対象は固定的に指示されると述べています。したがって、「水はH2Oである」といった命題は、全ての可能世界において必然的です。この概念は、因果的・歴史的指示理論の観点からも支えられています。特定の固有名は、その名付けの過程において歴史的な連続性が重要であり、個人名などがどのようにして形成されたかが鍵となります。

必然的同一性

クリプキの理論によると、固定指示子による同一性命題は必然的であるとされ、特定の対象の特性が異なる世界においても変わらないリーダウンが示されます。

おわりに

固定指示子の概念は、様々な哲学的議論において重要な役割を果たし、言語と現実との関係を探るための価値ある枠組みを提供しています。固有名や自然種の指示の本質を理解することは、哲学や論理における重要なステップであり、今後もこうした議論は継続されていくでしょう。

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