国家体育総局

国家体育総局：中国スポーツ行政の中枢

国家体育総局は、中華人民共和国におけるスポーツ行政を統括する政府機関であり、国務院の直属省庁として、その活動は中国のスポーツ界全体に大きな影響力を持っています。その歴史は、1952年に設立された「中央人民政府体育運動委員会」に遡ります。初代主任には、スポーツ愛好家として知られる賀竜元帥が就任しました。

歴史的変遷

設立当初の中央人民政府体育運動委員会は、1954年に「中華人民共和国体育運動委員会」と改称されました。しかし、文化大革命の混乱の中で賀竜が失脚し、組織も一時的に中国人民解放軍総参謀部に所属するなどの変遷を経ました。その後、国務院の指揮下に戻り、「中華人民共和国体育委員会」と名称変更。1998年には組織再編が行われ、一部機能が民間機関である中華全国体育総会に移管された上で、現在の「国家体育総局」という名称になりました。この組織改編は、第九次全国人民代表大会第一次会議で国務院の改革案が承認された後の1998年4月6日に実施されました。

日本のスポーツ庁との比較

日本のスポーツ庁は文部科学省の外局という位置づけであるのに対し、中国の国家体育総局は国務院直属の省庁として中央省庁待遇を受けており、より格上の扱いとなっています。この違いは、中国におけるスポーツの位置づけの違いからきています。

毛沢東のスポーツ重視政策

中国では、毛沢東が学生時代から体育の重要性を説き、体を動かすことの重要性を提唱してきました。これは当時の中国社会では「体を動かすことは下品」という考え方が一般的であったため、非常に画期的なものでした。毛沢東は、「体育が精神と肉体に与える影響」を研究し、運動を通じて身体を鍛えることの重要性を強調しました。この思想が、後の中国におけるスポーツ政策の基礎となりました。

1949年の中華人民共和国成立後、すぐに体育組織結成の動きが始まり、労働者や人民のための体育政策が発表されました。1952年には毛沢東が「発展体育運動　増強人民体質」というスローガンを掲げ、様々なスポーツ活動を推奨しました。さらに、1958年には体育研究を政府主導で再開し、1960年には「愛国衛生運動」の中で体操、球技、マラソン、登山、水泳、太極拳などの体育運動を呼びかけました。

毛沢東自らが長江を泳ぎ切るパフォーマンスを複数回行うなど、スポーツへの情熱を示し、その重要性を国民に訴えました。この結果、1965年には中国人民解放軍総参謀部、中国人民解放軍総政治部が水泳強化の指示を出すなど、国民全体でスポーツに取り組む機運が高まりました。

スポーツ観の違い

日本では、スポーツを娯楽の一環として捉え、その延長線上に健康があるという認識が一般的です。しかし、中国では、「国民体力は国力に直結し、最終的には国家の運命や軍事力に影響する」という考え方が根強く、国家レベルでスポーツを重視する政策がとられています。この違いが、担当官庁の扱いにも反映されていると言えるでしょう。

中華全国体育総会

国家体育総局に所属する各団体から構成される民間団体として中華全国体育総会がありますが、実質的には半官半民であり、国家体育総局の外局のような存在です。

まとめ

国家体育総局は、中国のスポーツ行政を統括する重要な機関であり、その歴史は毛沢東のスポーツ重視政策に深く根ざしています。日本のスポーツ庁とは異なり、国務院直属の中央省庁として格上の扱いを受け、中国のスポーツ振興と国民の健康増進に大きく貢献しています。

参考文献

李自力「日中太極拳交流史に関する研究 : 「簡化二十四式太極拳」の誕生から日本への太極拳移入の経緯について」『日本体育大学紀要』第35巻第2号、日本体育大学、2006年3月、147-158頁
高嶋航『文化大革命と毛沢東の水泳』京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター、2020年2月、249-274頁。

関連項目

中華全国体育総会: 中国のスポーツ諸団体を束ねる全国体育連盟。
北京体育大学: 国家体育総局傘下の大学。

外部リンク

中国体育五十年大事年表(1949--1998）
国家体育总局网站

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