国家評議会 (東ドイツ)

ドイツ民主共和国国家評議会：集団指導体制の象徴

ドイツ民主共和国（東ドイツ）において、1960年から1990年まで存在した国家評議会は、集団で国家元首の機能を担うという特異な役割を持つ機関でした。本記事では、その設立の背景から権限、歴代議長、そして庁舎に至るまで、国家評議会の詳細を解説します。

設立の背景

1949年の東ドイツ建国当初は大統領制が採用され、ヴィルヘルム・ピークが初代大統領に就任しました。しかし、1960年にピークが死去すると、後継の大統領は選出されず、憲法が改正されます。これにより、人民議会から選出される国家評議会が、集団で国家元首の機能を果たすことになりました。ただし、実際には国家評議会議長が元首に相当する役割を担いました。

構成メンバー

国家評議会は、議長、副議長、評議員、書記で構成されていました。興味深い点として、衛星政党の党首などが副議長を務めることで、社会主義統一党（SED）に馴染めない国民各層を間接的に体制内に取り込む効果がありました。

議長の権限と実態

ヴァルター・ウルブリヒトやエーリッヒ・ホーネッカーといった東ドイツの最高指導者が国家評議会議長を務めました。しかし、その権限は名誉的・儀礼的なものであり、ウルブリヒトやホーネッカーの実質的な権力基盤は、SEDの第一書記や書記長という役職にありました。ウルブリヒトは1971年に党第一書記を辞任した後も、1973年に死去するまで国家評議会議長の座に留まりましたが、実権は既にホーネッカーに移っていました。

権限

国家評議会は、以下のような権限を有していました。

国防に関する原則の決定、国防評議会のメンバーの任命
最高裁判所及び検事総長の活動の監督
大赦や特赦の権利の行使
国際条約の批准・破棄の通告
在外代表者の任命
軍人の階級、外交官の階級及びその他の特別の称号の制定
栄典の授与
法案の提出権

1968年の憲法改正時には、人民議会の招集権や法案の審査権などが国家評議会に与えられましたが、1974年の憲法改正でこれらの規定は削除されました。

歴代議長

ヴァルター・ウルブリヒト（1960年9月12日 - 1973年8月1日）
フリードリヒ・エーベルト（副議長による代行：1973年8月1日 - 10月3日）
ヴィリー・シュトフ（1973年10月3日 - 1976年10月29日）
エーリッヒ・ホーネッカー（1976年10月29日 - 1989年10月18日）
エゴン・クレンツ（1989年10月18日 - 12月6日）
マンフレート・ゲルラッハ（1989年12月6日 - 1990年4月5日）

国家評議会の終焉

ベルリンの壁崩壊後の自由化に伴い、1990年4月5日に憲法が改正され、国家評議会は廃止されました。その後、東ドイツが消滅する1990年10月2日まで、人民議会幹部会と人民議会議長が国家評議会とその議長の権限を行使しました。

庁舎

1964年までは、ピーク大統領の官邸として使用されていたシェーンハウゼン城が国家評議会の官邸として使用されていました。その後、新たに建設された国家評議会ビルに移転しました。このビルは、ドイツ再統一後には仮の連邦首相府として使用され、現在はヨーロッパ経営技術大学院の校舎となっています。

まとめ

ドイツ民主共和国国家評議会は、東ドイツの政治体制において重要な役割を果たした機関でした。集団指導体制という特異な形態や、SEDによる支配体制との関係など、興味深い側面を多く持っています。その歴史を理解することは、東ドイツという国家の全体像を把握する上で不可欠と言えるでしょう。

参考文献
『ドイツ憲法集【第6版】』翻訳：高田敏、初宿正典（2010年 信山社 ISBN 9784797224184）
『もうひとつのドイツ』仲井斌（1983年 朝日新聞社）

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